第28話 雪だるま


「ミーシャ・ガーネット公爵令嬢。あなたが俺を心配してここまで来てくれたことには感謝する。だが、なぜ叔父が偽物の魔鉱石を作り、フルラ国を攻め、クレアを討とうとしたのか今もわからない。ここに居れば、あなたに危害があるかもしれない」


「だから帰れって言われても、私は帰りませんからね」


 リアムは目を見開いた。

 ミーシャはかまわず、窓の外を指さした。


「せっかく雪がきれいな国に来たんですよ、雪だるまも、かまくら作りも、雪合戦もまだしていないのに帰れなんて酷いです」

 リアムは真顔になると、ミーシャの顔をのぞき込んだ。


「誰が帰れと言った? そんなこと、一言も言っていない」


 いきなりの美形ドアップはきつい。ミーシャは思わず後ずさりしたが、リアムはさらに距離を縮めてきた。


「ガーネット女公爵が、君を引きこもりと言って会わせてくれなかった理由がよくわかった。お転婆で、クレアにそっくりな見た目の君は目立ちすぎる」


 ミーシャはかっと顔が熱くなった。


「め、目立ちたいわけではありません。あなたが、無茶ばかりするから!」

「君の方が無茶している。いや、無鉄砲か?」

「それ、結局一緒の意味で言ってますよね?」

「うん。言っている」とリアムは素直に頷くと、微かに笑った。


 心臓がとくんと跳ねた。また後ろに下がろうとしたら、繋いだままの手を引かれた。しかたなくその場に留まり、背が高くなった彼を見上げる。


「帰らないで。ガーネット女公爵に変わって、君のことは俺が必ず守る」


 今度はミーシャが目を見開いた。


「だから、結界を解くことは勘弁してほしい。クレア師匠のことは悪く言わないでほしい。みんなを刺激することもできれば控えて。その他は好きにしていいから。芋を焼くなり、雪合戦するなりご自由にどうぞ」


 リアムは片方の手のひらを上に向けると、大小一つずつ、丸い雪の塊を形成した。ミーシャの手を上に向けると、手のひらに雪の玉を重ねる。

「これって、もしかして……」

「雪だるま」

 ミーシャは、渡された雪だるまをそっと両手で持った。目や口を作って上げたくなる。

「陛下って、頑固ですね」

「君もそうとう頑固だ」


 クレア時代、リアムと出会ったときに、小さな彼に花冠をあげた。時は流れ、大きくなった彼からは雪だるまをもらってしまった。

「かわいいプレゼントですね。ありがとうございます」

 なんだか笑えてきて、くすくすと笑うと、彼は目を見開いた。まるで不思議な生物でも見るような顔をしている。


「な、なにか?」

「いや、令嬢が笑うところ、初めて見たなと思って」

 また顔が一気に熱くなった。ミーシャは手のひらの雪だるまを持ち上げ、後ろに隠れた。


「……結界の件、陛下の仰せのままに。その代わり無茶はしないこと。当初の予定どおり、治療には協力してもらいますからね」

「もちろん」

 リアムは後ろを振り向いた。


「いい加減、部屋に向かおうか。侍従たちが凍ってしまいそうだ」

 見ると、少し離れた場所で待機しているみんなの頭に霜が降りていた。


「お二人の邪魔をしないように、雪の像になっておりました」

 ジーン宰相は、寒さでがたがたと震えながらもにこにこ笑顔だった。

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