第27話 皇帝になっていたはずの男⑶
* * *
「殺されかけて、気を失っていた俺が次に目を覚ましたとき、周りは火の海だった。そばに叔父の姿はなく、ぼろぼろに傷ついた師匠がいて驚いていたら、すぐに大きな炎の鳥に飲まれた」
「その光景を見た陛下は、力を暴走させた。炎を鎮めるために、一瞬でフルラ国全土を凍らせたと聞いています」
リアムはふっと笑った。
「力の使いすぎで俺が倒れたあと、すぐに氷は溶けたらしいけどね。炎で焼け、水浸しになったフルラの大地は無惨だったと聞く。そこにオリバーも、クレアの姿もなく、人々は勝手に魔女クレアだけを悪者にした」
炎を操る魔女が魔鉱石という凶悪な武器で人々を支配しようとした。
それにいち早く気づき、魔女を討とうとしたオリバー、しかし返り討ちに遭ってしまった。
まだ子供だったリアム皇子は、魔女の暴走を氷を使って鎮め敵(かたき)を取った。魔女を止めた英雄リアムはのちにグレシャー帝国皇帝となった。と、両国は思っている。孤児院で見たグレシャー帝国の絵本にもそう書かれていた。
精鋭部隊だけでのフルラ国奇襲はオリバーの独断だった。彼はクレアの魔鉱石の生成技術を盗み、不出来な魔鉱石を量産し、フルラ国に攻め入ったがその事実は、本人とクレアがいないことで歴史の闇に消えた。
「当時の皇帝、父であるルイス陛下は子供の俺が何を言っても信じてくれなかった」
ミーシャは下を向いた。
慕っていた叔父の裏切り、師匠との死別、そして何を話しても信じてくれない実父。幼いリアムはどれだけ傷ついただろう。
彼を思い、痛む胸をぎゅっと押さえた。
「サイラスさんの家族も、出兵されていたんですね?」
「ああ。サイラスの息子も、オリバーから不出来な魔鉱石を与えられた兵士の一人だ」
ミーシャは「お悔やみ申し上げます」と呟き、頭を下げた。
「母、エレノアから聞いています。クレアは魔鉱石を燃やし、人の命を生かした。しかし、不出来な魔鉱石を与えられ、命を燃料に強靱になっていた兵士はその後、正気を取り戻した者は一人もいなかったと。『魔女の呪い』のせいだと言って、クレアは死後、ますます畏れられるようになった。元兵士は身体の衰えも早く結局みんな、数年でこの世を去ってしまったそうですね……」
「魔女の呪いなどない」と、リアムは強く言い切った。
当時、負傷したグレシャー帝国の兵士より、フルラ兵や民の方が被害は大きく、国は悲惨な状態だった。フルラ国内でも、惨事の引き金となった謎多き魔鉱石を作り出した魔女クレアを恨む声で溢れていた。
クレアはミーシャに転生したばかりで、エレノアは子供を守るために事実を隠した。ミーシャ自身、魔力はほとんどなく、何もできず、してあげることはなかった。
「気を失う直前、クレアの炎に包まれた叔父の姿を見た。赤い炎の中、オリバーは笑っていたんだ」
リアムは外ではなく、ミーシャに向き直った。
「あなたがさっき言ったとおりクレアは、火と炎の鳥を操り、定めた対象だけを燃やせる。師匠は、兵士が持つ魔鉱石だけを燃やそうとしたんだとあとでわかった。……あの日から十六年。オリバーは姿を現さないが、きっと、今も叔父は生きている」
リアムは正気ではないかもしれないが。と付け加えた。
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