第26話 皇帝になっていたはずの男⑵
『オリバー叔父さん、止めてくれ。なぜこんな酷いことを!』
クレアの弟子として、フルラの国に留学して五年目だった。当時十歳のリアムは不意の出来事に驚き混乱しつつも、クレアと対峙する叔父を止めようとした。
『リアム、逃げなさい。来ないで!』
クレアはここに駆けつけるとき、リアムを遠ざけ逃がすよう手配していた。しかし、彼は一人できてしまった。
オリバーはおもむろに右手を上げた。現われた甥を見るなり、氷の
リアムは瞬時に氷の盾を形成し、攻撃を防ごうとしたがいくつかが身体にめり込み、その場に倒れた。
クレアが彼のもとへ駆けつけるよりも先にオリバーが近づいた。リアムの腕を掴むと、無理やり引き起こした。冷酷な目で甥を見下ろした。
まだ顔に幼さの残るリアムは、くぐもった声をあげながらも抵抗し、オリバーを睨んだ。
『この者は我が甥に非ず! 魔女に操られた裏切り者だ。勇敢な兵士よ。悪いのは魔女だ。惑わされずにクレアを討て』
魔鉱石を握る兵士たちは、命を燃やすことで最強になれた。氷を身に纏っているため、炎の中を平気で進む。身体は大きくなり、筋力も常人より数倍強く、一振りでフルラ兵数人が吹き飛んだ。
不出来な魔鉱石は人への負担が大きく、使っている最中に自我を失い凶暴化していく。みんな目が血走り、焦点が合わない。言葉を発することもできない獣と化していた。
命令には従順で、クレアに向かって数十人もの兵士が一斉に襲いかかった。
『叔父上!』
リアムがオリバーの手に触れ、魔力を暴発させる。身体が凍りついていくのにオリバーは涼しい顔で彼を見た。
「リアム、よく見ろ。おまえのおかげでフルラ王もフルラを守護する魔女エアも、あの大魔女クレアも油断してくれた。よくやった」
クレアは炎を使って襲い来る兵を退けながら、その言葉を聞き、リアムの絶望に染まる顔を見た。
「僕を、利用……したのか!」
「察したか。賢いな。だが、教えただろう。何でもかんでも鵜呑みにするのはよくないと」
オリバーは身体の氷を、服についた雪のように手で払いのけると、リアムの首を掴んだ。そのまま上へ、片手で簡単に持ち上げる。
「リアム、判断を謝ったな。残念だが、弱いおまえにはもう用はない」
兵士が邪魔だ。炎をものともせずに近づいてくる。
守らなければ。
届かないとわかっていても、クレアは弟子に向かって右手を伸ばした。
ここでオリバーを止めなければ、フルラに住む人々も、リアムも兵士もみんな死んでしまう。
クレアは、首から提げていた自身で一番の最高傑作の魔鉱石を左手でぎゅっと握った。
「判断を、誤ったのはあなたです!」
ありったけの魔力を込めると、今までにない威力で爆発を起こした。自分を中心に天にまで届きそうな真っ赤な火柱が上がる。爆音とともに熱風と炎が大地を駆けていく。
行く手を阻んでいたグレシャー兵を吹き飛ばしクレアは、炎の鳥をオリバーに向けて解き放った。
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