第22話 力不足


 彼には魔鉱石が必要だと思った。クレアが作った炎を宿せるガーネット色の魔鉱石だけではなく、氷を宿せるリアムだけの、魔鉱石がいる。

 クレアのときでも完成させられなかったけれど……。


「力不足、とは?」

 リアムの問いに顔を上げた。

「お答えするために、ここに、炎の鳥を呼び寄せてもよろしいでしょうか?」

 ミーシャの言葉に周りは過敏に反応した。陛下に危害を加えるつもりと思ったのか、壁に控えていた護衛が一斉に槍を構える。

 それをリアムが手を上げて止めた。


「どうして今、ここに呼びたい?」

「見ていただきたいからです」

 じっと見つめられ、ミーシャも見つめ返した。

「わかった。好きにしていい」

「ありがとうございます」

「陛下。信用してはなりません!」


 声を荒げたのは、ひょろりとした体型の年配の侍従だった。ミーシャにきつい目を向けている。

「この者は隣国の魔女です」

「だからなんだ」

 リアムが問うと、年配の侍従は前に歩み出た。


「魔女は炎の鳥を使い、我が国を何度も燃やしました。陛下に危害を加えるつもりかもしれないでしょう?」

「危害を加えるつもりなら、いちいち断りを入れないだろう」

 リアムは冷静に返すと、ミーシャを見た。

「令嬢。呼びたいなら呼べ」

「陛下!」

 悲痛な顔で侍従は訴えている。リアムは彼を見たあと周りにも目を向けた。

「大丈夫、心配ない」


 リアムは魔力を使った。建物内なのに一気に気温が下がり、吐く息が白くなる。

 侍従や警備兵の格好はもともと外にいるときと同じように完全防寒着だ。銅像のように直立不動の彼らの髪や髭が白く凍り出す。


「彼女が起こす炎が、たとえこの国すべてを焼き尽くそうとしても、俺が一瞬で止める。どんな煙火でも鎮めてみせる」


 これが、皇帝の威厳というものだろうか。

 リアムの発した声は力強く、誰もがみんな口を閉じた。彼は最後に、年配の侍従を見た。

「サイラス、俺を信じろ」

「……御意のとおり」

 老齢侍従のサイラスは、ぐっと唇を引き結ぶと胸に手を当て、リアムの前に跪いた。


 出会ったころの小さなリアムは、叔父のマントに隠れて、恥ずかしがっていた。

 今は何事にも冷静で、決断力もある。とても頼りになる皇帝に、立派な男の人に成長したと改めて思った。


 みんなを見つめていたリアムがこちらへ視線を向けた。

 感慨にふけっている場合じゃない。ミーシャは急いで両手を前にかざした。すうっと息を吸い、なるだけ柔らかい声で呼んだ。


「炎の鳥よ、おいで」


 侍従や、護衛兵、その場にいる者たちが固唾を飲んでいる。

 しばらくして、天窓から小鳥サイズの炎の鳥が三羽、入ってきた。ミーシャのもとへすっと、滑空してくると、手のひらと肩にそれぞれ止まった。


 何人もが詰めかける玄関の大広場ホールは、しんっと静まり返った。


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