第23話 この魔女どこかおかしい
「みなさん、これが炎の鳥です」
「……ずいぶんと小さいな。こないだ見せてもらった炎の鳥よりも小振りだ」
リアムは観察するように、手の中をのぞき込む。
「仰るとおりです。けれどこれが限界です。この程度の炎の鳥では、国を燃やすどころか、焼き芋も焼けない」
「芋?」
「はい、おいしいお芋です」
「芋を焼けないのか、……それは残念だ」
「芋なんて焼けなくてもいいでしょう。今は!」
見かねた宰相がリアムとミーシャの会話に入ってきた。
「つまりミーシャさまは、自分は魔力が乏しいと。ご自分に害はないと、証明したかったということですね?」
ミーシャは「そうです」と、頷いた。
「陛下の氷の結界が思った以上に強力で、炎の鳥を自由に操れないのです」
「だから結界を解けと。そして炎の鳥を自由に操り、この国を燃やすつもりなんだろう?」
まだ食ってかかってくるサイラスをミーシャはまっすぐ見つめた。
「焼き芋を作るのに、いちいち国を燃やしたりなんかいたしません」
それを聞いていたジーンは「芋から離れろ!」と思わず突っ込んだ。そのあとでわざとらしく咳払いをすると、にこりと笑った。
「ミーシャさまのお役目は、芋を焼くことではございません。陛下のお妃でございます。魔力がなくても、炎の鳥を操れなくても問題ないです」
「私はただの飾りの妃になるつもりはございません」
ミーシャははっきり伝えると、サイラスの前へ進み出た。
手のひらで大人しくしている炎の鳥を見せる。侍従は焦った顔で、よろよろと後ろに下がった。
「寄るな。そんなものを近づけるな!」
「この小鳥が怖いですか?」
「怖いものか!」
目をつり上げ、顔を真っ赤にさせたサイラスは、炎の鳥を手で払いのけようとした。しかし、炎の鳥に触れられるのは魔力がある者だけ。侍従の手は空を切っただけだった。
「何が、言いたい。何がしたい?」
怒る彼に向かってミーシャは笑いかける。
「この子、熱くないでしょう? 炎の鳥は、何でもかんでも燃やしたりしない。みなさまに危害を加えないと伝えたかっただけです」
ミーシャは炎の鳥をそっと手で包み込んだ。
「過去に、大魔女クレアと炎の鳥が、あなたとあなたの大切な人を傷つけ、苦しめたのでしょう。魔女の末裔の私が信じられず、許せない気持ちはわかります」
「ああ。許せない。十六年前の惨事は昨日のことのように、はっきりと覚えている」
胸が重く、痛んだ。だが、事実だ。ミーシャが傷つくのは違う。憎まれ嫌われているのは覚悟の上でここへ来ている。気合いを入れて顔をあげる。
「私も、クレアを許せません。だからこそ、少しでも陛下とみなさまを助けようと思って、ここへ来ました」
ミーシャは手を開くとそっと小鳥を飛ばした。炎の鳥がぱたぱたと羽ばたき、天井近くや、床すれすれを飛び回る。その場にいたみんなが小鳥を目で追いかけた。
「……あら? なんか、温かくなってきたわ」
壁に控えていた侍女が呟いた。ミーシャは彼女に向かってにこりと微笑みかけた。
「炎の鳥を使って、この場を温めてみました」
ミーシャは再び陛下の元に戻ると膝を折った。胸に手を当て、顔を伏せる。
「私はフルラ国の者で魔女です。本来ならば、陛下の妃にふさわしくない者。ですが、偉大なる帝国の王のお許しがいただけるのならば、私はできる限りのことをいたします。グレシャー帝国に尽くそうと思っております。だから……」
ミーシャは一度言葉を切ると顔をあげた。碧い瞳の彼をまっすぐ見つめ、続けた。
「陛下には、楽しく愉快に、長生きしてもらわないと困るんです!」
「愉快、え……?」
「あはは、楽しい! 長生き、最高っ! て感じです」
ミーシャは真顔で、万歳するように両手をぱっと開いて訴えた。
その場がさっき異常にしんっと静まり返る。
……この魔女どこかおかしい。と、しばらくして誰かが言った。
リアムを筆頭に誰もが思ったらしい。真剣な顔でみんなが頷き合っている。
変ね……。安心させようと思ったのに。なんか、ドン引きしてる……!
炎の鳥は、ミーシャの発言で凍りついた空気に耐えられなくなり、天窓から飛んで逃げていった。
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