*ミーシャ*
第21話 氷の宮殿
高くて広々とした天井の中央には煌めくシャンデリア。埃一つない、鏡のように磨き上げられた白い床。天窓から差し込む優しい光。
手が行き届いている美しい玄関ホールの中央にいたのは、誰よりも存在感を放つ、彼だった。
「氷の宮殿へようこそ」
リアム皇帝陛下はミーシャに手を差し出した。
――冷たい手。
微笑みながら彼の手を握り返したが、あまりの冷たさに驚き、ミーシャの笑みは凍った。戸惑うミーシャとは対象的に、氷の皇帝は涼しい顔だ。
三ヶ月前、クレアの石碑で出会ったリアムは、宝石類の装飾は身につけず、シンプルな服装をしていた。
今、目の前にいる彼は、一目で皇帝陛下だとわかるほど豪華な装いをしている。
白を基調とした服装で、マントも白く、ファーは柔らかそうだ。リアムは瞬時に剣を生成できるからか、帯剣はしていない。
着込んで温かそうにしている。なのに、常に彼から冷たい気を感じる。
ミーシャはリアムを睨んだ。手もぎゅっと、強く握る。
「ここに来るまでに、流氷の結界をこの目で見て参りました」
「そうか」
「陛下。今すぐ結界をお解きください」
ミーシャの発言に、周りにいた者たちが息を呑んだ。やがてざわざわと、さざなみが聞こえはじめる。
――魔女が、皇帝陛下の力を畏れている。
――結界を解けだと? 敵が押し寄せてきても良いということか。この魔女、もしかして間者?
リアムの身体が、魔力の使いすぎで蝕まれていると知っているのは宰相のジーンや一部の者だけ。ここに詰めかけている護衛や侍従たちは、事態の深刻さをわかっていない。
「ご令嬢、結界は必要です。陛下は偉大な氷使いの皇帝。意見申し上げるのはお慎みください」
さっそく宰相のジーンがミーシャを注意した。目が余計なことを言うなと訴えている。だけど、はいそうですか。と黙っていては、ここに来た意味がない。
ミーシャは片手だけではなく、両手でリアムの手を握った。
「グレシャー帝国は広大。ゆえに隣国と接する場所も多く、緊張感を持って国を維持しているのは私も存じております」
「その通りだ。だから、結界は解くことはできない」
氷の宮殿は丘の上にある。そしてさらに北に進めば天にも届きそうな山々が連なっている。山脈の向こうに平野はなく、極寒の海があるだけ。
リアムはこの場所から絶えず魔力を川へ流して、国中に結界を張り巡らせている。きっと、空の天候も操っている。広範囲で、加減の難しいことをリアムはずっと一人で行っているのだ。
これで、凍化病の原因がはっきりした。こんな無茶をしているから、魔力消費の揺り返しで身体が凍っているのね。逆によく今まで保っていたものだ。
宰相のジーンがガーネット家の娘との婚姻に躍起になっていた理由も対処法にあぐねてのこと。しかし……
さっきからずっとリアムの手を温めているが、冷たいままだ。自分の非力な魔力では全然太刀打ちできない。氷水にマッチの火を鎮めるようなもの。
「……陛下。そして宰相さま。やはり私では少々力不足のようです」
ミーシャはゆっくりとリアムから手を離した。
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