第12話 また会う約束
炎の鳥と、暖炉のおかげで部屋がずいぶんと暖かくなってきた。血の気が引いて真っ白だったリアムの顔色も、ほんのりと赤味が差している。
万全ではなくても、回復の兆しが見て取れてほっとしたタイミングで、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します」と言って入ってきたのは、リアムの側近数人と、宰相のジーンだった。リアムのそばに近寄ると、ひざまずいた。
「陛下、遅れて申し訳ございません。体調はいかがですか?」
「絶好調だ」
ジーンは顔を上げて、リアムの顔をじっと見た。
「それは何より。では、部屋を移動いたしましょう」
「わかった」
淡泊な受け答えだった。そばで二人の会話を聞いていたミーシャは慌てた。
「お言葉ですが、ジーンさま。陛下の体調はまだ万全ではございません」
ジーンはミーシャに向き直るとにこりと笑い、丁寧にお辞儀した。
「女公爵令嬢さま。このたびは迅速な治療をしていただき、誠にありがとうございました」
「いえ、私は何も。たいしたことはしておりません。陛下を温めて、屋敷にお連れしただけです」
「たいしたことですよ。陛下があの状態になると、普段なら半日から数日は動けなくなります。この短時間で動けるほどまで回復しているのが信じられないくらいです」
魔力による身体の変調には個人差がある。王家の寿命が短いように、見た目ではわからない事の方が多い。リアムの症状は見てすぐに確信できるほど、とても悪く、わかりやすかった。
「私がしたことは応急処置です。根本的な治療ではありません」
「いや、今回の処置は迅速で適切だった。礼を言う」
リアムは手に乗せていた炎の鳥をミーシャに返した。
「陛下。契約のお約束はしていただけましたが、患者が治す気がなければ治るものも治りませんよ」
「……そうだな」
リアムは短く言葉を発するとミーシャに背を向けた。ジーンに「行くぞ」と声をかける。
「エレノア様がお部屋をご用意してくださいました。そちらへご案内します」
朗らかに笑っていたジーンは真顔で頭を下げると先に部屋を出て行く。リアムも部屋を出て行こうとして、足を止め振り返った。
じっと見つめられて、なぜか胸の鼓動が早まった。
「本当に助かった。この先も長く世話になると思うが、よろしく頼む」
ミーシャはリアムが治療に前向きになってくれたんだと思い、嬉しくなった。
何に魔力を使いすぎているのか聞きそびれた。原因はわからないし、治療の方針もさだまっていないが、リアムの病は必ず治してみせる。
「はい。お任せください!」
ミーシャが決意を持って強く返事をすると、リアムは小春日和のような柔らかい笑みを浮かべた。
「また会おう」
短く言葉を発すると、リアムはしっかりとした足取りで部屋から出て行った。
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