2-5. 最強Cランクパーティ
「だから止めろって言ったんだ!」
マスターが
「この野郎!」
男は逆上してヴィクトルに殴りかかる。
だが、直後、ドン! という音がして、男はヴィクトルに触れることもできずに吹き飛ばされ、ギルドの壁にマトモにぶつかって落ち、ゴロゴロと転がった。
マスターは口をポカンと開け、転がる男を眺めていた。
「あ……、やっちゃった……」
ヴィクトルは思わず開いた口を手で押さえる。今まで魔物相手に全力で戦うことしかしてこなかったヴィクトルには、手加減は難しかった。
「試験結果は……どうなりますか?」
ヴィクトルは恐る恐るマスターに聞いた。
マスターはヴィクトルをチラッと見ると、腕組みして考え込んでしまった。そして、大きくため息をつくと、
「Sランクだ……。だが……。あなたは目立ちたくないんですよね?」
「そうですね、できたらEとかFランクが……」
「とんでもない! うーん……。あいつがDだったからな。Cで……どうかな?」
マスターは気を失ってる男を指して言った。
「分かりました! ではCでお願いします」
ヴィクトルはニコニコして言う。Cなら騒ぎになるようなランクでもないし、いい落としどころだろう。
「ただし! ギルドに来た難しい案件は手伝ってもらうよ!」
そう言ってマスターはヴィクトルの目をジッと見つめた。
「わ、分かりました……」
制約が付いてしまったが、それでもSランクで騒がれるよりはいい。
「私は何ランクですか? カカシ吹っ飛ばします?」
ルコアがニコニコしながら聞く。
マスターは肩をすくめながら首を振り、
「いやいや、カカシも安くないんでね……。あなたもどうせSランクでしょ? あの威圧は異常だった」
「ふふっ、バレてましたね」
うれしそうなルコア。
「同じくCランクにしておきます」
「主さま! Cですって!」
「うん、Cランクパーティでやっていこう」
ヴィクトルはニコッと笑った。
「それで……、さっそくで悪いんだが、依頼をやってくれないか?」
マスターが手を合わせて片目をつぶって言う。
「え? 何するんですか?」
「クラムの山奥にコカトリスが三匹巣食っていて、コイツを退治してもらいたい。報酬は金貨二十枚だ」
金貨二十枚なら三カ月ほど宿屋に泊まれる。結構おいしい仕事と言えそうだ。コカトリスは石化の魔法を使う厄介な鳥の魔物だが、遠距離から叩けば大丈夫だろう。
「分かりました! よし、ルコア! クラムまで競争だ――――!」
ヴィクトルは嬉しそうにそう言うと、飛行魔法でビュンと飛び上がった。
「へぇっ!?」
驚くマスター。
「あっ、主さま、ずるーい!」
そう言うと、ルコアも追いかけて飛びあがる。
二人はあっという間に小さくなって見えなくなってしまった。
「はぁ!? 何だあいつら……」
マスターは飛行魔法の常識を破って飛ぶ二人を見て仰天する。飛行魔法というのはふわふわとゆっくり飛ぶ魔法であって、普通、あんなすっ飛んでいくようなものではないのだ……。
「信じられない連中だ……」
マスターは首を振り、ため息をつくと、転がっている男の所へ行った。
そして、ほほをパンパンと叩き、起こす。
必要であれば治癒魔法を誰かに頼まないとならない。
「おい、大丈夫か?」
マスターが声をかけると、男はゆっくりと目を開けた……。
「あ、あれ? 俺は……何して……るんだ?」
「新人冒険者に倒されたんだ、思い出せ」
「新人……? あ、あの子供?」
「Cランク冒険者だ。お前より強いんだ。二度と絡むなよ!」
「C!? 子供がC!?」
「だってお前、歯が立たなかったろ?」
すると男はガクッとうなだれ、ゆっくりとうなずく。
マスターは、パンパンと男の背中を叩き、
「早く冒険の準備でもしろ!」
と、発破をかける。
そして、斬られて転がっているカカシのところへ行くと、その切り口のなめらかさをなで、ため息をつき、新しいカカシと入れ替えた。
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