2-6. 痛いウロコ

 いきなり激しい衝撃音が走り、地面が揺れる。

 マスターが驚いて音の方を見ると、金髪の可愛い少年、ヴィクトルが砂ぼこりの中、両手を上げてドヤ顔で立っていた。

「主さま、速過ぎですー」

 ルコアが遅れて飛んでやってくる。

「お、お前たちどうしたんだ?」

 マスターは、なぜか帰ってきてしまった二人に困惑する。

「どうしたって、コカトリス狩ってきたんだよ。ハイ!」

 そう言って緑色に光る魔石を三個、マスターに渡した。

「金貨二十枚だよ!」

 ヴィクトルは初成果が嬉しくて、ニコニコしながら言う。

「ちょ、ちょっと待て。もう終わったのか?」

「だって狩るだけでしょ?」

 当たり前のように返すヴィクトル。

「主さまが三匹とも狩ってしまいました……」

 ルコアは残念そうに言う。

「あ、そ、そうなんだ……」

 マスターは規格外の二人に面食らい、魔石を眺めて立ち尽くした。


        ◇


 二人はギルドカードを作成してもらっている間、防具屋へ行く。


 壁に並べられているいぶし銀の立派なよろいを見て、ヴィクトルは声を上げる。

「うわぁ、すごーい!」

 表面に彫られた唐草や幻獣の精緻な模様は、見ているだけでワクワクしてくる。


「主さまは防具なんて要らないのでは?」

 ルコアは不思議そうに聞く。

「いやいや、冒険者だからね! それっぽい見た目してないとさ!」

 ヴィクトルはウキウキだった。

「でも、小さい子供向けの鎧なんてないですよ?」

「なんだ? 坊主、鎧欲しいのか?」

 厳つい中年男が後ろからにこやかに声をかけてくる。筋肉がムキムキで頭にはタオルを巻いている。店主のようだった。

「あ、僕は後衛なのでローブがいいんですが、子供用はありますか?」

「特注ならできるが……。坊主が……魔物狩るのか?」

 店主はいぶかしげに言う。

「僕はこれでもギルド公認の冒険者なんです」

 ヴィクトルはニコッと笑って言った。

「Cランクですよ! C!」

 横からルコアが余計な事を言い、ヴィクトルは額を手で押さえた。

「C!? ほ、本当か? そりゃぁ……凄いな……」

 店主は目を丸くする。

 ヴィクトルはコホンと咳払いをして言った。

「できたら賢者が着るような渋い奴がいいんですが……」

「えっ!? 主さまって賢者なんですか?」

 驚くルコア。

「あ、いや、あくまでもイメージで……ね」

「賢者かぁ……、そしたらこんなのはどうだ?」

 そう言うと、店主は奥から純白のローブを取り出してきた。それは襟のところが青で金の縁取りがされた立派なものだった。

「えっ!? これって?」

 ヴィクトルは驚く。それは前世時代に愛用していたデザインのローブだった。

「そう、稀代の大賢者アマンドゥス様のローブだよ!」

 ヴィクトルはローブを手に取ると、懐かしさで思わず目頭が熱くなってしまう。

「だが、さすがにこれを着ようって奴はいないがな。ガハハハ!」

 店主はうれしそうに笑った。

 ヴィクトルはもう一度そでを通したく思ったが、ぐっとこらえ、

「これの青と白をひっくり返した物でお願いしたいんですが……」

 と、店主に伝える。

「ふむ、アマンドゥス・リスペクトだな。いいんじゃないか?」

 店主はニコッと笑った。

「特殊効果を加えることはできますか?」

「もちろんできるが……、龍のウロコとかいるぞ?」

 店主は顔を曇らせる。

「それって暗黒龍のウロコでもいいですか?」

 ヴィクトルはルコアをチラッと見て言った。

「あー、暗黒龍なら結構いい物になると思うぞ。魔法防御力+10%とか行くかもしれない。逆鱗げきりんならさらにその倍だな」

「ダメです! ダメです! 逆鱗とか絶対ダメ! すっごく痛いんです!」

 ルコアが焦って言う。

「痛い……?」

 店主がいぶかしげにルコアを見た。

「お、お財布が痛いんですよ」

 ヴィクトルがあわててフォローする。

「お財布って……、暗黒龍の逆鱗なんてどこにも売ってないぞ?」

「大丈夫です。逆鱗は諦めましたから」

 それを聞いて、ホッと胸をなでおろすルコア。

「ウロコは……大丈夫そう?」

 ヴィクトルは申し訳なさそうにルコアに聞く。

「主さまが何でも一回言うこと聞いてくれるなら……調達できるかも……しれないですね」

 ルコアはジト目でヴィクトルを見た。

 ヴィクトルは両手を合わせて頭を下げる。

 そして、店主に聞いた。

「ウロコ持ってくるだけでいいですか?」

 店主はノートを取り出してパラパラめくりながら言う。

「後は……、サイクロプスの魔石と……加工賃が金貨十枚だな」

「分かりました! 持ってきますね」

 ヴィクトルはニコニコして言った。


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