1-10. 禁断の魔法陣
ぼーっと森の風景を見ていたら、何やら遠くの木々の間に影が動いた。
ヴィクトルは索敵の魔法を絞って当ててみる。すると、驚くべきことに数百匹の魔物の反応があるではないか!
「な、なんだあいつら……」
数百匹は異常だ。近づくべきではない。近づいちゃいけない、とは思うものの、大賢者としては好奇心が押さえられない。魔物が大勢集まって何かをやっている。そんな話はいまだかつて聞いたこともなかったのだ。
「そっと様子を見るだけ……ね」
ヴィクトルは慎重に魔物たちに近づいて行く。
木々の間に様子が分かるところまで近づくと、そっと様子をうかがった。すると、石造りの構造物が見える。
さらに近づいて観察すると、大木の根に破壊された石造りの建物が見えてきた。周りには精緻な石像があちこちに転がっている。なるほど、ここは遺跡なのだ。
そして、ゴブリンが二匹、遺跡の入り口で槍を持って並んでいる。どうやら警備兵のようだ。
索敵の魔法によると、あの遺跡の地下に数百匹がいるらしい。つまり、遺跡の地下の空間で祭りか何かが開かれているに違いない。しかし、魔物が祭りなんてするのだろうか?
ヴィクトルはいぶかしく思ったが、ここまで来て手ぶらでは戻れない。
遠くからしっかりと照準を見定め、
そして、警戒しながら遺跡の入口へと駆け寄った。
入り口をそっとのぞくと下への階段になっており、その先に地下の広間がありそうだったが、暗くて良く分からない。
ざわざわとする魔物たちの声や熱気が上がってくる。何かをやっていることは間違いなかったが、さすがにこれ以上は近づけない。
ヴィクトルは意を決すると、
「ポイズンフォグ! ポイズンフォグ! ポイズンフォグ!」
と、毒霧を階下に向けて連射し、遺跡を毒漬けにした。
そして最後に、
「ホーリーシールド!」
と、叫んで出入り口をふさぐ。
「逃げろ――――!」
ヴィクトルは全力で駆けた。
見つかったら最後、命に関わる。きっと雑魚だらけだろうが数は力だ。こういう時は逃げるに限る。
はぁはぁはぁ……。
ヴィクトルは息を切らしながら巨木のところまで戻ってくると、また枝に登って様子を見た。
ピロローン!
ピロローン!
レベルアップの音が鳴り響く。
「やったぁ!」
思わずヴィクトルはガッツポーズ!
ところが……
ピロローン!
ピロローン!
レベルアップの音が鳴りやまない……。
ヴィクトルは不安になった。
ゴブリンが数百匹いたってレベルアップなんて三つが限度だろう。一体自分は何を殺してしまったのか……。
索敵の魔法をかけてみると魔物の反応は一つも残ってなかった。全滅させてしまったらしい。
ポイズンフォグの殺傷力はそんなに強くないはず。もしかしたら、出口に殺到した魔物たちがパニックになって、折り重なって大惨事になってしまったのかもしれない。
倒したのは魔物とは言えヴィクトルはちょっと心が痛んだ。
「さて……。申し訳ないが魔石を回収させてもらうか……」
ヴィクトルは遺跡まで戻ってくると、慎重に階段を下りて行く。
しかし、魔石は一つもなかった。
「えっ? 魔石……どこ行っちゃったんだろう……」
明かりの魔法を使って遺跡内を照らしながら進むと、広大な広間が見えてきたが、異臭が鼻を突いた。
「な、何の臭いだ……?」
見ると、壇上に台が置いてあり、何かが飾られている。いぶかしく思って近づき、
「ひぃ!」
ヴィクトルは思わず悲鳴を上げた。
そこに並べられていたのは人間の生首だったのだ。
周りには装備や手足が無造作に転がされている。どうやら冒険者を捕まえてきて首をはねたらしい。
ヴィクトルは顔面蒼白となり、胃液がこみ上げてくるのを必死に抑えた。
と、その時、広間の中央部がボウっと光る。
何だろうと、よく見るとそれは巨大な魔法陣だった。
「えっ……!? 何の魔法陣……、ひっ!!」
ヴィクトルは再度悲鳴を上げた。その魔法陣に見覚えがあったのだ。それは深遠なる闇から太祖の妖魔を召喚する禁断の魔法陣だった。
「と、止めないと!」
ヴィクトルは必死に足で魔法陣をゴシゴシとこすって消し、召喚を停止しようとしたが、時すでに遅し。
広間は鮮烈な金色の輝きに覆われ、もはや目を開けていられなかった。
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