1-9. 爽やかスライム
索敵の魔法をかけながら慎重に森を進むと、何か反応がある。ソロの雑魚のようだ。丁度いい。
鑑定をかけてみると、
コボルト レア度:★
魔物 レベル12
と、浮かび上がった。格好の獲物である。
ヴィクトルは忍び足で見通しの良い所まで行くと、まだ気がついていないコボルトの方に手のひらを向け、
「
と、叫んだ。
直後、手の平に閃光が走り、まばゆい光の弾が一直線に走った。
声に驚いたコボルトだったが、直撃を食らい、爆発で吹き飛ばされる。
すかさずヴィクトルは、倒れたところに土魔法を使う。
「
コボルトの下の地面から三本、土の槍が突き出て、白い毛皮に覆われたコボルトの胸や腹を貫いた。
ギャゥッ!
コボルトは断末魔の悲鳴を上げ、ビクビクと
そして最後には消えて、魔石となって転がった。
「よしっ!」
ヴィクトルは狩りの初成功に機嫌を良くし、魔石を拾いに行く。
本来、遠距離から魔法なんてそう簡単に当たるものではない。しかし、ヴィクトルは稀代の大賢者なのだ。その有効射程距離は世界トップクラスであり、雑魚一匹であればもはや何の不安もない。ただの楽しい狩りである。
魔力ポイント(MP)が自然回復する間、木の根に腰かけ、朝食代わりに魔石を食べる。
アイボリーに鈍く光る魔石は、ちょっとミルクセーキっぽい濃厚な味がしてヴィクトルに活力を与えた。
朝もやも消え、木々のすき間から朝日がチラチラと輝いている。森の空気は爽やかな木々の香りに満ちていて、神聖な清浄感が心を洗う。
暗黒の森がいつ生まれたのかヴィクトルは知らないが、本来はただの森林だったように思えた。それだけ魔物の存在には森の生態系と相いれない違和感がある。
そもそも魔物とはいったい何なのだろうか? 倒すとなぜ魔石になってしまうのだろうか? 大賢者として長年生きてきたヴィクトルもこの点だけはいまだに分からない。
しかし、あの美しい女神と出会ったことで、ヴィクトルはこの世界の仕組みに迫れそうな手掛かりを得た思いがあった。まだ言語化はできないが、女神の存在と魔物の存在、それは聖と魔で反対ではあるものの、根源には似たものを感じていたのだ。
◇
午前中、ヴィクトルは魔法を駆使してトレントやスライムなど含めて十匹程度魔物を倒した。しかし、レベルは一つしか上がらない。やはり雑魚を幾ら狩ってもレベルアップは厳しいのだ。ただ、魔石を食べたおかげでステータスだけはどんどんと上がっている。思った通り魔石を食べるのは効果絶大だった。
ヴィクトルは樹齢数百年はありそうな重厚な巨木にやってくると、ボコボコしてる苔むした樹皮にとりつく。木登りなんて何十年ぶりくらいだろうか? 慎重に持ち手を選びながらゆっくりと登る。そして、居心地の良さそうな枝を見つけるとそこに座った。
顔を上げると森の木々が見渡す限り広がり、気持ちよさそうな雲が青空にぽっかりと浮かんでいる。
おぉぉ……。
ヴィクトルは、見事な風景に思わず声をあげる。
爽やかな森を渡る風がツヤツヤな可愛い頬をなで、金髪を揺らす。ヴィクトルは気持ちよさそうに目をつぶった。
「さーてランチは何にしようかな?」
そう言いながら、魔石をポケットから出して見比べた。
水色に輝くのはスライムの魔石。ヴィクトルは魔石をかざして見る。どこまでも続く森がまるで水に沈んだように真っ青に染まって見える。
「よし! スライム、お前だ!」
そう言うとヴィクトルはチュルッと吸った。
ポロロン!
MP最大値 +1、魔力 +1
口の中に広がるのは爽やかなサイダーの味……。疲れをいやす爽快感がヴィクトルを満たし、恍惚とした表情で、ふぅと息をついた。
魔石はどれも凄く洗練された味をしていて極上の癒しとなる。それに、力も湧いてくる。まるでエナジードリンクだった。
ヴィクトルは試しに次々と魔石を食べてみたが、お腹がいっぱいになるわけでもなく、全部楽しむことができた。もしかしたら上限は無いのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます