1-11. 最凶最悪の妖魔、妲己
ぐわぁぁ!
尻もちをつくヴィクトル。
「フハハハハ!」
広間には不気味な若い女の笑い声が響いた。
クッ!
見ると、黄金の光をまとい、ゆっくりと宙を舞う美しい女性が黒髪をふんわりと波打たせながら楽しそうに笑っている。女性は赤い模様のついた白いワンピースを着て、腕には羽衣をまとわせて、うれしそうに腕を舞わせる。ワンピースには脇にスリットが入っており、美しい肌がのぞいていた。
ヴィクトルはすかさず鑑定を走らせる。
太祖妖魔 レベル 354
「ヒェッ!」
ヴィクトルは絶望に打ちひしがれた。レア度7は前世でも見た事が無い振り切れた値なのだ……。
伝説では国をいくつも滅ぼしたとされる、最凶最悪の妖魔、
「余を呼びしはお主じゃな? どこを滅ぼすんじゃ?」
妲己はニヤッと笑う。
「え? わ、私ですか?」
「何言っとる、
ヴィクトルは驚いた。殺した魔物は全部生贄として使われてしまったらしい。
「そ、それは手違いです」
ヴィクトルは冷や汗を垂らしながら答えた。
「へぇ……? 手違いで余を呼びしかっ!」
妲己から漆黒のオーラが噴き出し、不機嫌そうな視線がヴィクトルを貫く。
「お、お鎮まりください!」
ヴィクトルは必死に怒りを鎮めようとしたが、妲己は、
「不愉快なり! 死をもって償え!」
そう叫ぶと、腕を光り輝かせながらブンと振る。
直後、光の刃が目にも止まらぬ速さで飛び、ヴィクトルを一刀両断に切り裂いた。
ガハッ!
地面に崩れ落ちるヴィクトル。
妲己に、バシッ! という音が走ったが、妲己は平気な顔をしている。
「怪しきアイテムを持っとったな? 小賢しい奴じゃ。じゃが、効かぬぞよ」
妲己はニヤリと笑った。ここまでレベルが高いと『倍返し』のアイテムは効かないようだった。
ヴィクトルは朦朧とする意識を必死に立て直し、
「ヒ、ヒール!」
と、回復をかけながら妲己を見上げる。
「ほぅ?
と、興味深げにヴィクトルを眺めた。
「お、お帰り頂くことはできませんか?」
ヴィクトルはよろよろと立ち上がりながら聞く。
「はぁ!? たわけが!」
妲己はブワッと漆黒のオーラを巻き上がらせ、そのままヴィクトルにぶち当てた。
グハァ!
吹き飛ばされるヴィクトル。
「ただで帰れと言うか! 街の一つや二つ滅ぼさんと気が済まぬ!」
妲己はそう叫んでにらんだ。
「わ、分かりました。そうしたら、三年……三年待ってください。私が強くなって妲己様の満足のいくお相手をします」
「小童、お主がか? はっはっは! 言うのう……。ふむ……、一年じゃ。一年だけ待ってやろう! 余も手下の準備が要りしことじゃしな」
妲己はそう言うと優美に腕を舞わせ、鮮烈な光をまとった。
うわっ!
思わず腕で顔を覆うヴィクトル。
フハハハハ――――!
妲己は楽しそうに笑うと、一気に飛び上がり、広間の天井をぶち抜いて飛び去って行く。
やがて広間には静けさが戻ってきたが、ヴィクトルの耳には、忌々しい笑い声がいつまでも残っていた……。
「い、一年……」
ヴィクトルはひざから崩れ落ちる。
とんでもない事態を引き起こしてしまった……。
自分は昨日までレベル1だったのだ。たった一年鍛えた位で、レベル三百五十を超える伝説上の化け物に勝てる訳がない。
どう考えても無理だった。
しかし、放っておいたら手あたり次第街を襲うだろう。そして妲己を倒せる人間など誰もいない。多くの人が死んでしまう……。
これは自分の責任だ……。
ヴィクトルはうなだれる。
もはやできること全てをやってみる以外なかった。
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