4. 無慈悲な閃光
英斗はあたりを見回し、近くのマンションの非常階段へと忍び込む。見ると階段の下には粗大ごみの段ボールが積まれていた。少し考えて、大きなものを一つ抜き取ると階段を上っていく。
階段の上の方からはゲートの様子がよく見えた。英斗は段ボールを組み立てて、いくつか穴を開けるとそれをかぶり、中に入った。やや
穴からゲートの方を
この蝶は【パピヨール】と呼ばれる昆虫系飛行種であり、今まで多くの街を火の海に沈めてきた極めてたちの悪い魔物だった。
英斗は紗雪との相性の悪さに顔をしかめる。
紗雪は空を飛べない。空から延々と攻撃を加えられたら紗雪は一方的にやられてしまう。これは、魔物はただ破壊が好きなだけの野蛮生物ではない事を示していた。知性をもって目的を達成しようとする恐るべき存在に違いない。
奥歯をギリッと鳴らす音がかすかに段ボールの中に響く。
魔物は一匹だけではなかった。次々と無数飛び出してくる。パピヨールは上空へ上がると鳥の群れのようにグルグルと編隊飛行をはじめた。それは、あたりが薄暗くなるほどのものすごい数で、英斗はこれから始まる惨劇の予感に青ざめる。そして、顔を両手で覆い、ギュッと目をつぶると何とか潰れそうになる心をギリギリのところで保っていた。
やがて、ぶわぁと街を覆うように広がると一斉に激烈な閃光を放つ。直後、街のあちこちが派手に爆発し、地震のように衝撃が襲ってきた。
ぐわっ!
英斗は頭を抱えて小さくなる。TVでパピヨールの攻撃も見たことがあったが、自分が体験してみると全く違う。パピヨールは画面の向こうではなく目の前にいて、すぐそこに死が待っている。まさに死神のような抜き身の殺意がこの自分の街を覆っているのだ。
英斗はドクンドクンと激しく鼓動が響く中、漂ってくる死の気配に震える手を何とか抑え込み、荒い息を漏らしながら穴からそっと街をのぞいてみる。あちこちで家は吹き飛び、ビルは半壊してどす黒い黒煙を吐き、トラックはひっくり返って火の手が上がっていた。
しかし、これで終わりではない。パピヨールたちは鮮やかな
くっ!
英斗は慌てて冷たいコンクリートの床を押さえる。
死――――。
今まさに死神のサイコロが自分の命を標的にかけている。その切迫した現実が真綿のように英斗の首を絞めつけていく。
このままでは殺されてしまう。自衛隊は、紗雪はどういう状況だろうか?
英斗は穴から必死に辺りを見回した。
直後、近くのビルから金色の光の筋が無数空へと放たれていくのが見えた。その輝きは昨日見た紗雪のシャーペンの攻撃だろう。紗雪はあそこにいるのだ。
しかし、飛び回るパピヨールに当てるのは難しい。当たってもシャーペンの芯のような
逆にパピヨールたちは紗雪の位置を把握し、集まってきてしまう。
やはり紗雪とパピヨールは相性が悪い。これはマズい事になった。
英斗は紗雪の大ピンチに青くなる。
助けなきゃ! でも、どうやって?
あんな圧倒的な化け物相手に高校生ができることなど何もない。英斗はあまりの無力、ふがいなさに、ギギギっと奥歯を鳴らした。
直後、パピヨールたちは紗雪のいたビルめがけて次々と激烈な閃光を撃ち込んでいく。無数のパピヨールたちの集中砲火を浴び、ビルは轟音をあげながら爆発を繰り返し、崩落していく。その恐るべき火力は立派なビルをあっという間に瓦礫の山へと変えていった。
あ……あぁぁ……。
英斗は頭を抱え、声にならない声を上げながらその凄惨な殺戮劇を見つめていた。愛しい紗雪が爆炎の中、瓦礫に沈んでいく。そんな認めたくない現実が、英斗の心の柔らかな部分をビリビリと引き裂いていった。
「さ、紗雪ぃ……」
容赦のない攻撃はさらに続き、街には無慈悲な爆発音が響き渡っていく。
英斗のほほを知らぬ間に涙が伝った。
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