5. 灼熱のドラゴンブレス
その時、何かが公園の方で動く。
え?
それは見慣れた銀色のジャケットを着た女の子、紗雪だった。
あ、あれ?
英斗は涙をぬぐうと居住まいを正し、紗雪をジッと見つめる。そして、この公園の下には川が流れていたことを思い出した。公園は
よ、良かった……。
英斗はへなへなと全身から力が抜けていくのを感じた。紗雪は英斗が考えるよりずっと賢く行動力もある。もう、泣き虫だった幼いころの紗雪ではないのだ。
英斗は大きく息をつき、紗雪を見つめた。
紗雪はあの赤いシャーペンで空中に何かを描き始める。空中に絵を描けること自体極めてナンセンスな話だったが、ペンの跡は緑色に蛍光して輝いていた。紗雪は大きな円を描き、中に六
まさか……。
英斗は
もちろん、昨日の超常的な紗雪の攻撃力も常軌を逸していたが、まだ『科学』という線も考えられなくはない。しかし、魔法陣となればもはや科学なんかではない、もはや異世界ファンタジーだった。
描き終わった魔法陣は緑色に怪しく輝き、直後、激しい閃光を放ちながら竜巻のような強烈な風の渦を爆発的に吹き出す。ゴォォォと激しい轟音を立てながら、竜巻は一気にビルの上に集まっていたパピヨールたちに襲いかかった。
無数いたパピヨールたちはあっという間に風の渦に引き込まれ、ズタズタに切り裂かれ、まるで空を舞うごみクズの山へと化していく。
逃げ出そうとしたパピヨールも激しい強風にあおられて渦を巻くように吸い寄せられ、最後には竜巻で処理されていった。
その鮮やかな殺戮劇に英斗は戦慄を覚える。かわいい幼なじみが繰り出したその恐るべき破壊力はもはや大量破壊兵器であり、とても女子高生のやる事には思えなかった。
一体紗雪はどうしちゃったんだ……。
科学では説明のつかない力を操る紗雪に英斗は戸惑い、頭を抱える。
もちろん、魔物を退治してくれたことは感謝したかったが、それ以上に紗雪が巻き込まれている恐ろし気な状況の方が気になってしまう。少なくとも小学生の頃は本当にただの可愛い女の子だったのだ。
いつから? なぜ? どうやって? これは紗雪の意志? 誰かにやらされている?
次々と疑問が頭の中をぐるぐると回り、英斗は目をギュッとつぶってうなだれた。
「あーあ、派手にやってくれおったな」
いきなり女の子のかわいい声が非常階段に響き、英斗はビクッとして固まった。
そっと穴をのぞくと、そこには金髪おかっぱの
「おしおきタイムじゃ」
女の子はそう言うとポケットから水色のクリスタルのスティックを取り出し、高く掲げる。
直後、爆発音がして女の子は消え去り、上空に巨大な影が浮かんだ。
へ?
英斗は穴から見上げると、そこには巨大な翼をはばたかせる恐竜のような巨体が浮かんでいた。いかつい漆黒の鱗に覆われた身体は金色の光を
ギュアァァァ――――!
腹に響く超重低音の恐るべき
英斗は目を疑った。あの可愛い女の子が凶悪な巨大ドラゴンに変身したとしか考えられないが、そんなことってあるのだろうか? 物理法則も何もない。さっきの紗雪の魔法にしても、いつから日本は異世界になってしまったのだろう。
ドラゴンはバサッバサッと巨大な翼をはばたかせながら紗雪を目指した。
紗雪はすかさずシャーペンから光の筋を乱射しドラゴンに当てていくが、ドラゴンは平然としている。黄金に輝く重厚な鱗には全く通用しないようだった。
諦めた紗雪は今度は魔法陣を描き始める。瑠璃色に輝く円に六芒星、そしてルーン文字。
するとドラゴンは車をかみ砕けそうな巨大な口をパカッと開く。その中にはオレンジ色の光が輝き始めていた。
紗雪が魔法陣を描き終わると、魔法陣は激しく青い鮮烈な光を放ちながらツララのような巨大な氷の槍を無数射出する。ツララは鋭いエッジを光らせながら目にもとまらぬ速度でまっすぐにドラゴンへと襲いかかっていったが、直後ドラゴンは激烈な閃光を放った。
その閃光がもたらす激しい熱線は全てを焼き払う。ツララは瞬時に蒸発、公園の木々は茶色く焦げ、そして炎をあげていった。
「あぁぁぁ……、さ、紗雪……」
これがファンタジーの小説によく出てくるドラゴンブレスという奴だろうか?
実際に目にするとその圧倒的なパワーに英斗は気おされ、改めてドラゴンの破格な攻撃力にゾッとする。
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