第10話 手術後の経過

歩夢は手術を受けた。手術は予定通り無事に終了し、右膝下ひざしたの切断をした。やはり下肢を切断した後、全く辛くない事はなかったが、自殺を考えたりすることはなかった。これからの未来を考えていた。


そして、手術後のリハビリが始まった。

リハビリは辛かったが、歩夢は弱音を吐く事はなかった。歩夢の病棟での実習が終わった碧海は、院外での保育園実習が始まり忙しくなった。


歩夢の術後の経過は気にはなっていたが、歩夢と顔を合わせる事がなかった。


メールで歩夢は碧海を日曜にいつもの中庭に呼び出した。碧海と会うのは3週間ぶりだった。


歩夢は車椅子に乗り義足をつけていた。

歩夢は碧海があちらから近づいてくると、大声で叫んだ。


「見てて!」


車椅子から立ちあがりベンチの背もたれに掴まり、緩やかな坂になっている芝生の上を歩く。


「どう?頑張ったでしょ?」


得意気につかまり歩きをする歩夢は、碧海の顔を期待した顔で見た。

碧海は興奮しながら歩夢のもとへ走っていった。


「すごい!すごいよ!頑張ったね!」


「まだまだなんだけど、少し歩けるようになったんだ!」


歩夢の両腕を興奮した碧海は掴み、ぶんぶん上下に振った。その反動で体勢を崩した歩夢と碧海は芝生の上に倒れた。


歩夢も碧海も怪我はなかったが、碧海の上に歩夢が重なるように倒れ密着した体勢に2人とも顔が赤い。


碧海は、この雰囲気を消したくて歩夢に謝罪した。

「ごめん。私のせいだよ倒れたの。怪我はない?」


「大丈夫だよ」


お互い目を合わせて返事をしたものの、顔が近く息がかかる。その後の無言がまたお互いを意識させる。


「碧海さん……好き」


歩夢に頬を両手で抑えられキスをされた。誰かに見られているかもしれない事さえも忘れそうになるくらい段々キスは深くなる。歩夢の両手は碧海の身体を強く抱きしめていた。


少し歩夢の力が緩くなると碧海は、身体を歩夢から離した。

唇にはまだ互いの生温かい感触が残り、お互いが火照った身体を冷やすように見つめ合う。


「歩夢くん。私も好き……」


歩夢は嬉しさのあまり、また碧海を抱きしめ、キスをしようとする。

咄嗟に真っ赤な顔の碧海は、歩夢の口を右手で押さえた。


「歩夢くん……ここ病院だから!外だから……」


身体を離し、碧海の手をはずし、悪い顔をした歩夢が碧海の顔を見る。


「じゃあ部屋の中なら何してもいいの?」


この意地悪な笑みをする歩夢を碧海は知っている。

昔、図書室で手を握ってきた時の顔だった。


碧海は恥じらい怒ったふりをした。

「もう知らない!」


歩夢は怒る碧海を愛しい目で見つめ微笑んだ。

2人は再び目を合わせると声を出して笑った。


そのまま芝生に寝転び澄み切った空を見る。

春の終わりを告げるかのように、濃い青い草の匂いが鼻まで届き懐かしい感じがした。

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