第9話 穏やかな心

翌日朝から歩夢はそわそわして、廊下を行ったり来たりしてウロウロ車椅子でしていた。


碧海の姿を見かけるとすぐに車椅子で向かった。

「碧海さん、本とDVDありがとう」


普段病棟で話しかけてこない歩夢に驚いたが、歩夢の柔らかい表情に碧海は安心と嬉しさが湧いてきた。


「喜んでくれたなら良かった!実習終わって部屋行くね」


歩夢は笑顔で頷く。碧海の邪魔にならないように部屋に戻った。明日が手術で不安や緊張しているはずなのに、碧海が部屋に来るのを楽しみにしていた。


実習が終わり、着替えて病室に行くと碧海が言ったので、歩夢は待ち切れずいつもの中庭で待ち合せをする事にした。

碧海は、実習が終わり私服に着替えて、歩夢の待つ中庭に向かった。

歩夢は走ってくる碧海を見るなり手を挙げて微笑んだ。


「歩夢くん、待たせてごめんね」


息を整えながら碧海はベンチに座った。


「いや……俺こそ疲れているのに来てもらってごめんね。どうしても昨日のお礼言いたかったし話したかったんだ。明日手術だし……。碧海さん本当にありがとう。」


「何もたいした事してないよ」


改まって感謝され碧海は恐縮して微笑む。


「俺は切断後の人生までもいつの間にか諦めてたみたい。碧海さんのおかげで、手術前にこうやって落ち着いた気持ちでいられてる。手術の後も自分らしく生きればいんだよね……。気づかせてくれてありがとう」


碧海は首を横にふりながら、顔を歪ませ涙を我慢している。碧海の諦めないでほしいという気持ちが伝わっていた。

歩夢は碧海をみて表情を緩めた。


「車椅子バスケットって凄い迫力があるから、体力もつけないといけないし……車椅子の運転も難しそうなんだよね。でもやってみたいと思ったよ。手術が終わって落ち着いたら車椅子のバスケットの試合一緒に観に行かない?」


碧海は思いもかけない歩夢の誘いに驚いた顔をしたが、すぐに頷き了承をした。歩夢は、恥ずかしそうな顔をしていたが返事を聞いて白い歯をみせた。


「リハビリもこれから沢山頑張るよ」


「その前に明日の手術頑張ってね」


「そうだ!」



夕日も沈みかけ、お互いの目に映るオレンジの空色がとても綺麗だった。2人の笑い声が遠くまで聞こえていた。

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