第5話 避ける

碧海は、休みの日に気分転換に買い物に出た帰り道、病院の敷地内で車椅子に乗り、遠くで子供達がサッカーボールで遊んでいるのを見ている歩夢に会った。


歩夢は、楽しそうに笑う子供達を見て、今にも泣き出しそうな不安な顔をしていた。

碧海は、歩夢を見て見ぬふりをすることが出来ず、歩夢の側までゆっくり歩いていった。


「歩夢君……久しぶりだね。今日休みで、ちょうどドーナツ買ってきたから一緒に食べない?」


歩夢は碧海の顔を見るなり、返事もせずに車椅子を漕いで反対方向に逃げていった。


碧海は、歩夢の後ろ姿を目で追うが見えなくなり、近くのベンチに座る。買ってきたばかりのチョコリングドーナツを取り出し、歩夢が見ていた子供達を見ながら一口食べた。甘いはずなのに、なぜだか甘さが足りなかった。


ーー簡単にはうまくいかないよな〜。歩夢君の手助けをしたいのに……。でも1人になりたいよね……。


子供達は、サッカーボールを蹴りながら笑いあい、色んな声が聞こえてくる。碧海は、歩夢の気持ちを考えるとまた苦しくなり、ドーナツを食べ終えた後も日が暮れるまで子供達を見ていた。


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