第4話 理由

あの後病棟の師長に呼ばれ感謝された。だが、歩夢のことを考えると複雑な思いで私の表情は固い。


師長は顔が晴れない私に歩夢の事を教えてくれた。


「あの子は、栗屋 歩夢くりや  あゆむくん。金三津かねみつは知り合いなのかな?」


碧海は、返事をして真剣な顔をした。


「バスケU22の日本代表で活躍していたらしいけど、少し前に、帰宅途中にバイクで事故にあって、右足の開放骨折で運ばれてきたの。足の傷も酷くて血流も悪くて、下肢切断をしようてことになったんだけど、本人も家族も拒否をされて……他の治療をしていたんだけどね。効果がやはり期待できなくなって……足の色ももうだいぶん悪くなってきているから先生がもう一度切断の話しを昨日したばかりだったの。」


切断の文字を聞いた碧海は息を呑んだ。


「こちらも注意していたんだけどね。友達なら顔を合わせた時は、話しかけてあげて。友達の面会も断ってるみたいだし。きっと1人で悩んでると思うから……。もちろんここには、看護実習に来ているんだから、自分の患者さん優先だけど。でもあそこで歩夢君が踏みとどめられたのは金三津さんのおかげだと思うのよね……」


話しを聞いて憂患ゆうかんな顔をした碧海は、中学の頃バスケが上手かった歩夢を思い出した。


ーーバスケですごく頑張ってたんだ歩夢くん……知らなかった。今の歩夢くんに切断は残酷すぎるな……。


師長に挨拶して部屋を出て行ったが、師長からの話しは碧海には衝撃的だった。

その後の実習は全く身が入らず、担当患者さんに気を遣わせてしまった形になった。


ーーこんなの駄目なのにしっかりしないと。患者さんに気を使わせる看護師とか失格だ。


自分の不甲斐なさと歩夢の心配と、毎日の沢山の実習記録や計画に碧海は疲れていた。

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