第2話 再会

心地よい風が吹くこの病院の5階にある中庭庭園は、風が心地よく沢山の木も騒めく。光と緑色のコントラストが心を落ち着けてくれる癒しの空間。

患者さんも病気を忘れるくらい気分転換になるだろう。


……のはずが、突然1人の若い男が車椅子から立ったかと思うと、腕だけで塀を簡単に登り、塀の上に座った。

後姿の男はいつ飛んでもおかしくない雰囲気で塀の下を見ている。

一瞬の事で、出遅れたがその男の元に焦って走って行く。


「何してるんですか?危ないですよ?」


その男は塀の下を見たまま私に返事した。


「もう死にたいと思って……生きてても意味がない」


私はその答えを聞いて息を飲んだ。冷たい風は男の身体にも吹きかかり風に手でも生えたように男の服を早く早くと引っ張る。


ーーどうしよう。自殺?大学生くらいみたいだけど何て声かければいいんだろう。


碧海うみは始めて遭遇したこの状況で恐怖を感じたが、目の前で誰かが自らの命を投げだすのは見たくない。


もう一度、刺激を与えないように笑顔を顔に貼りつけ精一杯の笑顔で話しかけた。


「どうされたんですか?」


今にも飛び降りそうな男はやっと碧海の方をふり向いた。

お互いの顔を見て息を飲み言葉を失う。

2人の間を風は吹きぬけ、お互いの髪の毛がふわりと揺れた。


碧海の瞳に映ったのは、大人びてはいるが間違いなく中学時代の初恋の男の子だった。

先に声を出したのは碧海だった。


歩夢あゆむくん……」


その言葉に若い男も驚きを隠せない。碧海を見て若い男は無意識に身体を碧海の方に向けていた。その時を待っていた職員達が一斉に若い男に飛びかかり塀から引きずり下ろした。


若い男の一連の流れをみていた患者さんが、スタッフの応援を呼んでくれていた。


無事に確保されている歩夢をみて碧海は膝を折り座り込んだ。歩夢が助かった事への安堵と同時に、歩夢の精神面に対して懸念した。


お互い何年も会ってない久しぶりの再会は昔と違い、甘酸っぱさも何もない、ただただ後口が悪いものだった。

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