俺の胸がBカップだと!? 超絶美少女になっちゃった!!

 ――フィッティングルームの中で俺こと野獣院零やじゅういんれい恵令奈えれなから投げ掛けられた言葉に驚いてしまった。


「零にはしばらく男のとして過ごして貰いたいんだ」


 彼女の突拍子のない発言の真意がつかめず、とまどいを隠せずにいた俺もその理由わけを聞いて何となく合点がいった。


「確かに【ときめぐトゥラブ】の神イベントを再現したいのもあるけど、むちゃモテコーデだけの理由じゃない、女の子の恰好をすることに零の将来が掛かっていると言っても過言じゃないから……」


「恵令奈、このブラをつけることと俺の将来にどんな関係があるんだ?」


「……いまはすべてを言えない、零にこれから施すむちゃモテコーデで完璧に男の娘になってもらってから、に会って欲しいとだけ話しておくよ」


 初ブラと言う難関に俺は思わず躊躇してしまったんだ……。


 ええい、ままよ!! 恵令奈にすべてを賭けてみることにした。どうせ自分には失う物なんか何もないんだ。これは俺の直観に過ぎないかも知れないが、彼女の真剣な表情は信じるに値する気がした……。


 そして意を決して俺は恵令奈の差し出すブラを手に取った。


「待って、まだブラを身に着けちゃダメ……!!」


 そのまま自分の胸にブラをあてがおうとした俺を、突然恵令奈に制された。驚いて可愛いブラを両手に広げたまま彼女の顔を凝視する。


「これをブラのカップに入れてみて」


 恵令奈が俺に手渡したのは楕円形の物体で肌色をしていた。厚みも有りちょうど小ぶりな石鹸ぐらいの大きさだ。


「これは秘密兵器なんだ、普通のブラに入っている薄型のパットだと全然膨らみが足りないから、これをブラカップの内側に入れるだけでBカップくらいのバストサイスに出来ると思う」


 さっき恵令奈が買い物かごに放り込んだ物はこれだったのか。


「ありがとう、恵令奈、きみはやっぱり優しいんだね……」


 男の娘モードではない俺の態度に恵令奈が頬を染める。


「零、ブラを手に持って何、決め顔で言ってんだよ、もう調子狂うなぁ」


 そのまま慌ててフィッティングルームから出て行く彼女。

 立ち去り際、俺の耳元に小声でつぶやいた……。


「えっ、えっと……。 私は外で待ってるから何か分からないことがあったら、

 カーテン越しでも良いから声を掛けろよ」


 恵令奈はそのギャルな外見とは裏腹に、じつは男慣れしていないんじゃないのか? つい俺は偏見でギャルイコール男遊びが激しいという勝手な方程式を思い浮かべてしまったんだ。もしかして彼女はツチノコやネッシー並みに存在があり得ないオタクに優しいギャルなのぉ!? ビッチと見せかけて中身はえっちな経験のないおぼこ娘とかマジで存在するのか!!


 お姉ちゃんである真奈美先生の前だから全然態度が違うのかと勘違いしていた。

 彼女は俺の置かれている境遇を察して必死に応援してくれていたんじゃないのか!? 恥ずかしいのを我慢して下着を選んでくれたのか……。


 俺は彼女に謝りたい気持ちで一杯になった。恵令奈に女装の過程を見られるのが恥ずかしいと自分の外聞ばかり気にしてしまった。


「よし!! いっちょブラでもパンツでも何でもやったるか!!」


 俺は決意を固めた。そんな彼女の為にも最高の女装をしてやるんだ!!


 ブラを胸に当て、後ろ手でホックを留めようとするが中々上手くいかない。何だか知恵の輪のようだ……。女の子は毎日こんな面倒くさい物を身に着けているのか!? 


 変な感心を思い浮かべて俺はブラを試行錯誤しながら胸に装着する。そのままだと男のぺたんこな胸ではカップがぶかぶかだ。そこに秘密兵器のブラパットを装着する。


「おおっ!? こ、これは……!!」


 思わず、感嘆の声が口の端から溢れてしまう。


 目の前の姿見の鏡に映った俺の胸にはなんと谷間のある膨らみが存在していた。

 恵令奈の言っていたBカップ位だろうか!?

 黒船級の恵令奈やどっきん真奈美先生のおっぱいには敵わないかもしれないが、小ぶりなサイズはまた別腹でイケる!!


 こんなこと、本人たちの前で言ったら間違いなく変態扱いされて頬を張り倒されるだろうな……。いけないとは思いつつ自分で二つの膨らみをてのひらで上に持ち上げてみる。


 ぷるるん♡


 おおっ!? この弾力、ボリューム!! 自分の身体に存在するのが

 とても信じられない……。


「もう着けられた?」


 カーテン越しに恵令奈に呼びかけられ、あまりの動揺で文字通り胸がドキッとするのが俺の両手越しに伝わってくる。慌てて上着を羽織ってブラが見えないようにする。


「は、はい、大丈夫だよ、開けても平気……」

 

 こういう所作に気を遣うのも本当に女の子って大変なんだな。ゆっくりとカーテンが開き隙間から恵令奈が顔を覗かせる。


「あっ、いいんじゃないか!! どこから見てもすっかり女の子だよ……」


 恵令奈が満面の笑顔で喜んでくれるのを見て俺も何だか嬉しくなった。


「ブラのサイズは大丈夫、どこか苦しくない?」


「う、うん、大丈夫、何だか変な気分だけど……」


「じゃあ、そのサイズを色違いで数セット揃えようか!! ショーツは試着出来ないから、Lサイズでいいよね。あと普通だったら新品のインナーは一度洗濯をしたほうが良いんだけど今回はこれからアウターの試着もあるし、さっき外で店員さんの了解を貰ったから、ブラは特別に着たまま帰れるよ。タグだけ取ってもらうから一度外してね」


 そうなんだ、知らなかった……。


 外したブラをカーテン越しの彼女に手渡しながら考えた。男の俺の場合は洗濯なんかせず新品のパンツはそのまま穿くんだけどな、女の子って色々面倒なんだな……。


 えっ!? 恵令奈はアウターの試着もあるって言ってたな。このおっぱいのままで外に出るのか……。かなりハードルが高いな、そんな俺の悩みはすぐに杞憂に終わった。このランジェリーショップには珍しくパウダールームが併設されているそうで、恵令奈が豪語しためちゃモテコーデの一環で俺は短時間で完璧なメイクを施された。


 そのメイクの顛末は長くなりそうなので一部だけ抜粋させてくれ。



 *******



「零、手鏡を見てもいいぞ、我ながら完璧な仕上がりに惚れ惚れするぜ」


「!!」


 俺は自分の目を疑った……。


 そこには見知らぬ女の子が鏡の中に写っていた。肩まで伸びたミディアムヘア、両サイドを後ろで纏めたハーフアップの髪型。抜けるような透明感のある白い肌、清楚な感じのメイクで憂いを含んだ瞳、綺麗にカールした長い睫が印象的な女の子だ、


「か、可愛い……」


 驚くべきことに鏡の中で頬のチークと同系色のリップが塗られたキュートな唇が、自分のしゃべった言葉と完全にシンクロしたんだ。


「えっ!! えええっ!?」


 あんぐりと口を開けても美少女のままなのは変わらない。まったく信じられないが手鏡の中の女の子は俺なんだ……。しばらく身動きひとつ出来なかった、俺の身にいったい何が起こってしまったんだ!!


「想像以上の仕上がりだぜ……。零、あまり動かず顔をこっちに良く見せろよ」


 恵令奈が俺のあごを軽く押さえながら自分の顔を急接近させる。


「んっ……!?」


 ギャルな美少女にあごクイをされる美少女な俺。何なんだ!? この謎な構図は……。 頭がクラクラする。



 *******



 メイクの女装は恵令奈の神業メイクで何とかなったが、ショッピングモールのメイン通路に出るのは、男の娘デビューの身としてはかなり勇気がいるかも……。


 そんな俺をの気持ちを察したのか、レジで会計を済ました恵令奈が俺の背後に立ち、優しく背中を押してくれる。


「ほら零!! 勇気を出して表に出ろよ」


 ぽんっ!! と恵令奈が俺の背中を押した。


 ランジェリーショップから一歩、俺は店外に足を踏み出た。中央のメイン通路は、夕方の買い物客でごった返している。目の前に大学生位だろうか、男性数人が居た、

 その若い男性達の無遠慮な視線が俺に絡みつく……。


 俺の胸を真っ先に見た後で次に顔を確認する視線の動きがはっきり感じられた。

 そうなのか!? 綺麗な女の子になるってこういうことなんだ。


 俺は苦笑しながら新しい世界にまた一歩、踏み出した……。



 次回に続く。



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