可愛い女子高生から甘い恋の手ほどき♡

 「……恵令奈えれな、お待たせ!!」


 運転席のウインドウが下がり、真奈美先生が手を振りながら声を掛けてきた。


「ごめんね、かなり待ったんじゃない?」


「ううん、真奈美まなみお姉ちゃん平気だよ、私たちも今来たところ!!」


「……良かったぁ、教職員のミーティングが押して恵令奈との約束に遅れるかと思ったよ、それにこの駅前はいつも渋滞してるでしょ、すっごく慌てちゃった」


「あっ、急いだからってまさか危ない運転なんてしていないよね!? そうじゃなくてもお姉ちゃんはあわてんぼうなんだから、事故でもしたら大変だよ!!」


「……それは大丈夫、法定速度や一時停止、いつも恵令奈から口うるさく言われているから、まるで教習所の鬼教官さながらにね!!」


「鬼教官とかひどいよ、恵令奈は真奈美お姉ちゃんが心配なの、家族の反対を押し切って急に車に乗りたいから免許を取るとか言い出して心配だったんだよ。今まで車なんて全然興味がなかったのに……」


「恵令奈、に乗りたいから免許を取ったの。私の可愛い相棒さんにね」


 真奈美先生は微笑みながら愛車のハンドルを愛おしそうに撫でる。二人のやり取りを脇から眺めているだけで仲の良さが伝わってくるな。俺には兄弟がいないから羨ましいかぎりだ。


 それに何より微笑ましいのは恵令奈が俺にむける態度とは一変していたことだ。姉の真奈美先生と話す仕草は本当に可愛い妹に戻るんだな。

 思わず口に出しそうになったが、また怒られるといけないからこの場は黙っていよう……。


野獣院やじゅういん君、久しぶりね。元気そうで何よりだわ」


「……真奈美先生」


 真奈美先生が運転席から降りてきて俺の荷物を預かってくれた。

 俺が学校を休んでいた理由わけを真っ先に問いたださないことに深い配慮を感じる。恵令奈が助手席シートを手際よく前方に倒し後部座席に身を滑らせながら乗り込む。


「さっ、遠慮せずに乗って!! まあ、恵令奈の車じゃないけど、あっ、紹介しなくてもいいよね、今日の真奈美お姉ちゃんは素敵でしょ? 恵令奈がお願いして着替えてから迎えに来て貰ったんだよ!!」


「こらこら、恵令奈、余計なことを野獣院君に言わないの……」


 恵令奈を軽くたしなめた後、こちらに向き直った真奈美先生は確かに綺麗だった。普段の学校での彼女は長い髪を後ろで無造作に纏め、眼鏡を掛けた顔は化粧っ気が無く見えるが今日はまるで別人のようだ。


 服装はフェミニンなブラウスとフレアスカートでふんわりとした装いだ。派手さがなくともこれだけ綺麗に見えるのは恵令奈の言うとおり相当な美人さんだな。

 どっきん真奈美先生とか軽々しく呼べないかもしれないな。


 スケベな俺はいつも真奈美先生の黒船級の胸にばかり視線を奪われていたが、恵令奈とそっくりなロリフェイスも化粧と洋服で全然違った印象を与えてくれるんだ。

 俺は女の人の凄さを垣間見た気分になってしまった……。


 これが大人の魅力なのか……。 


 普段なら、年上の女性に弱い虫がうずき始める所だが、今の俺にはあかね乙歌おとかという大切な幼馴染がいるんだ。鼻の下を伸ばしている場合じゃない!!


「野獣院君、恵令奈から事情は全部聞いたわ、恥ずかしがらなくてもいいのよ。女の子の恰好が好きなこと、そうね、と言う呼称も今は古いかな? 自分の中の違和感に今まで良く我慢してこれたわね。先生が気付いてあげるべきだったのに……。本当にごめんなさい」


「えっ、俺の中の違和感って!?」


 真奈美先生が何を言っているのか良く分からない……。


 俺はまたラブコメお約束の難聴系主人公になってしまったのか!?


「真奈美おねえ!? それはまだ言っちゃ駄目!! 順序ってものがあるよぉ……」


「あっ!? ごめんなさい……。ついうっかりして」


 二人の意味不明な会話に疑問を感じつつ、ひとまず様子を見ようと考えた。


 帰宅で混み合う駅前を抜け港の見える赤い橋を横目に、俺たちを乗せた車はどうやら湾岸地帯に向かっているようだ。


「ねえ、野獣院君は女の子のファッションで何系が好みなのかな、ガーリー、フェミニン、モード?」


 真奈美先生がルームミラー越しに声を掛けて来た。


 俺の女の子の服装の好みを聞いているのか!? なぜこの状況でその質問なんだろう……。


 まあいいか。真奈美先生には正直に答えておこう。


「ええっと俺、イマドキの女の子のファッションとかうといんですけど……」

 

「じゃあファッション関係は恵令奈に全部おまかせしても大丈夫?」


「はい構いませんよ、俺の恰好も恵令奈さんにお任せするつもりでしたから」


 俺は不思議なことに気がついた。なぜ恵令奈は会話に参加してこないのだろうか? 二人っきりのときはあれほど饒舌で会話をリードするほどなのに、そう思った瞬間だった。後ろから彼女の元気な声が俺の耳に届いた。


「まかせて!! 恵令奈が完璧なむちゃモテコーデしてあげるから」


「え、恵令奈……!?」


 恵令奈が後部座席から俺の肩に手を伸ばしながら力強く宣言する。


 これが彼女の言っていた恋の手ほどきか!? 


 恵令奈がお世話モードに移行したことがひしひしと伝わってくる。


 賑やかなやり取りをしている間に車は目的地に到着したようだ。


「あれっ、この場所は!?」


 ここは県内でも最大級の大型ショッピングモールだ。茜から聞いたことがあるが、確かファッション関係の店が軒を連ねアウトレットも充実している、洋服にあまり興味のない俺には縁遠い場所だ……。


「さあ、二人とも急いで!! むちゃモテコーデのお買い物ツアーに出発するよ」


 恵令奈のやる気が爆上がりしている様子だ……。


 一階の食料品フロアを抜けると、左右に多数のショップがある。恵令奈は最初にどの店に行くんだろうか?


「最初の目的地はここだよ!!」


 恵令奈が指し示したショップの入り口で俺は思わず店内のまぶしさにたじろいてしまった……。


 その理由わけはきらびやかな電飾だけでなく.店頭を埋め尽くす色とりどりのブラとショーツに圧倒されたからだ。


 そう、むちゃモテコーデを俺に叩き込むと豪語した恵令奈の最初の目的地は、何と女性用下着の店、ランジェリーショップだったんだ……。



 次回に続く。

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