可愛い女子高生と混雑した電車内で密着デート!?
……長いトンネルを抜けると一気に車窓の景色が変わった。
線路とほぼ並行に走る国道では、夕刻の渋滞の車列が出来はじめていた。
時間帯が帰宅ラッシュというのもあるが、近隣には大手の鉄鋼会社が有り、
国道の渋滞と重なるために朝と夕刻の混雑はおなじみの光景だ……。
道路の渋滞はまだピークの時間帯ではないが電車内はかなりの混雑だった。
俺は電車の戸口付近に立ち、窓越しの景色を手持ち無沙汰に眺めていた。
電車が二個目のトンネルに入る、光が遮られた車窓に映るのは
お嬢様女子校の
「……何、恵令奈の胸ばかりジロジロ見てんだよ、いい加減にそのエロい視線を外さないと拝観料取るぞ、こら!!」
……すっかりバレていたか、仕方がないな。ここは虎穴に入らずんば虎子を得ず作戦でいこう。
「ごめん、ごめん、形の良いおっぱいについ見とれてしまって……」
「あっ!? この野郎!! 変態行為を開き直りやがったな。だから男は嫌なんだよ。すぐに恵令奈の胸ばかり見て……。本当はこの時間帯の電車にも乗りたくないのに、どこかの使えないクソ真面目くんの自転車が故障したおかげてとんだ予定変更だぜ」
「……それについては謝るよ。君がせっかく【ときめぐトゥラブ】の神イベントをリアルでも再現してくれるって言ったのに、まさか俺の自転車が故障なんて」
「本当だぜ、まったく……。自転車のチェーンが外れて困っているのが
恵令奈の言うとおりだ。
意気揚々と神ギャルゲー【ときめぐり愛しトゥルーラブ】のイベントをリアルでも再現して俺に濃いの。もとい恋のイロハを叩き込もうと二人乗りの自転車で出掛けたまでは良かったが、途中で俺の自転車が致命的なチェーントラブルで走行不能になってしまったんだ……。やむなく最寄りの駅から電車に乗り換え、恵令奈と一緒に次の目的地へ向かっているんだ。
「……それにしても次の目的地を教えてくれよ。この電車は上り方向に向かっているけどいったいどこに行くつもりなんだ?」
「そんなに慌てるなよ。昔から慌てる何とかは貰いが少ないと言うだろ、【ときめぐトゥラブ】でも最後にヒロインから告白を勝ち取るのは冷静に自分磨きをしたプレイヤーだけだぞ……。そういえばお前、ひどい格好だな、それじゃあ女の子に嫌われるぜ。よし、次の駅で降りたら恵令奈がいっちょ、むちゃモテコーデしてやるか!!」
「む、むちゃモテコーデって!? そこまで【ときめぐトゥラブ】を再現するつもりなのぉ……」
「あたりまえだろ!! 何をいまさら寝ぼけたことをほざいてんだよ。ヒロイン攻略法をお前に叩き込んでやるって恵令奈は言ったはずだぜ」
「そっ、それは分かるけど、アレはゲーム内のことで
「ははっ、クソ真面目くん、そんなつまらないことを心配すんな。この恵令奈に任せなさい!! 君更津南女子のググッと特上むちゃモテ生徒会長と呼ばれているのはダテじゃないぜ。プチプラコーデぐらいお手のものだ。そうやっていままで何人もの女の子を垢抜けさせてきたかお前にも分からせてやんよ!!」
「……は、はあ、むちゃモテ生徒会長ですか、恵令奈さんが!?」
「あっ!? お前、その目は疑ってんな!! 分かったよ、これから身体で分からせてやる。恵令奈がじっくりと手ほどきしてやるから覚悟しろ!!」
……どうやら俺は恵令奈の機嫌を損ねてしまったようだ。
でもよりによってギャルの彼女がお嬢様女子校である君更津女子の生徒会長なんて、にわかには信じられない。それにむちゃモテコーデって【ときめぐトゥラブ】のゲーム内システムの名称だ。複数のヒロインの好感度を上げるためにはそのヒロイン個別に気に入られるコーディネイトをしなければいけないんだ。むろん服装だけではなく、髪型から体型まで整えて告白までこぎ着けなければトゥルーエンドは難しいんだ……。それを恵令奈は現実でも俺にやらせるつもりなのか!? いったいどんな方法を考えているんだ、それに目的地はいったいどこに向かっているんだ!?
「……おっ!? もうすぐ目的地のある駅だぞ、反対側の扉に移動するか、めっちゃ混んでいるから降りられなくなるといけないからな」
「あっ!? 恵令奈、そんなに手を強く引っ張るなよ!!」
「さんをつけろよ、このクソ童貞野郎……」
さすがに混雑した電車内なのを気にしているのか、彼女は恥ずかしそうに俺の耳もとにささやきかけてきた。
その派手な外見とは裏腹に結構、公共のマナーは守るタイプなのが意外に思えた。
俺のイメージするギャルは電車内でも傍若無人に振る舞って、陰キャの天敵とばかり感じて普段から距離を置いていたんだ。ついつい見た目で判断するのは俺の悪い癖かもしれないな……。
よく考えてみればあの才女のどっきん真奈美先生の実の妹で、名門の君更津南女子に入れる学力なら、普通に頭は良いはずだ、それにあの大きなお屋敷を見ても分かるように深窓の令嬢と言っても過言ではないだろう……。
それなのに、なぜ恵令奈はギャルな装いをしているんだろうか!?
電車は隣町の駅に到着した。恵令奈に促されてホームに降りたつ。
混雑した改札を抜けて、古ぼけた駅の階段を上がる。
「この先のロータリーに迎えを呼んであるからさ、もうすぐ到着すると思うぜ」
「……迎えって!? いったい誰が来るの!!」
「まあ、電車を降りてからのお楽しみだな……!!」
待ち合わせ場所の駅前のロータリーは狸の童謡で有名な場所で、
夏にはそれにちなんだお祭りが行われる場所だ。
あの有名な阿波踊りと同じく数十人で
駅前といえば乙歌に痴漢の冤罪を着せられた事件を思い出すな……。
さすがにこの場所でいきなり緊急逮捕はされないだろうが。
目の前にある駅前交番を見ながらそんな不安が頭をよぎる。
丁度、バイクでパトロールから戻ってきた若い警官と目が合ってしまう、
一瞬、ドキリとするが、にっこりと微笑みかけると警官も会釈してくれた、
大丈夫、今の自分は清廉潔白だ。いっぺんの曇りもない。
まあ、さっきは電車内で恵令奈の黒船級なおっぱいをめちゃくちゃガン見してしまったが。アレもりっぱな視姦罪に問われてもおかしくないな……。
でも普段なら目で
「……そろそろ待ち合わせの時間だな、おっ!? 来た来た!!」
恵令奈が叫ぶやいなや、駅前のロータリーに水色の車が到着した、丸っこいキュートな車体、二気筒バイクのようなエンジン音、笑いかけるようなフロントマスク。
イタリア製のチンクエチェントと呼ばれるコンパクトカーだ。
「恵令奈、お待たせ!!」
運転席のウインドウが下がり、意外な人物が手を振りながら俺たちに声を掛けてきた。
「ええっ!? お迎えってまさか!!」
俺は相手の顔を見て驚きを隠せなかった……。
次回に続く。
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