可愛い幼馴染の部屋で恋の人生相談。
「零ちん、先にお部屋にどうぞ、茜はお茶を用意してくるからベッドにでも腰掛けてちょっと待っていてくれるかな……」
「……お、お邪魔します」
俺、
前回、この部屋に入ったのがずいぶん昔のことのように感じてしまう……。
勝手知ったるとは言わないが、部屋に置かれたベッドの位置まで覚えている。
それ程、あの日に繰り広げられた茜との夜の個人レッスンの印象が強烈だったんだ。
『あっ、あーん♡ 箸を引っ張っちゃ駄目!!』
『それは茜のさきっぽ……。 別のお豆さんだよぉ!!』
いま思い出してもこみ上げてくる熱い衝動。俺は自分の頬が真っ赤になるのを自覚した。
茜に勧められるがままに腰掛けたベッドが軽い軋み音を立てた。
それと同時に甘い柑橘系の香りが俺の
腰掛けたベッドから漂う茜の香りを嗅ぐだけで、まるでパブロフの犬みたいに俺の身体が反応してしまいそうになる。
普段のラッキースケベ体質の俺だったら、前を押さえながらこんな状態になっていただろう。
『ううっ……!?』✕ 一匹の
いい加減にしろ!! 俺の零ちん、ティンティロリン♬ しかけるなんて不謹慎すぎるぞ……。
今日の俺は茜の部屋に話し合いをするために来たんだ。
それにまだ日は暮れていない。夜の大運動会を開催するにはいくら何でも早すぎるだろう。
そして何よりも煩悩にブレーキが掛かった強い原因がある、俺の胸中に浮かんだ言葉によって自己を抑えることが出来たんだ……。
『だけどこれだけは
茜と玄関前で再会した瞬間は、あまりの嬉しさに気持ちが高ぶりすぎて自分を抑えることが出来なかった。あらためて振り返ってみる。もう一人の大切な俺の幼馴染、
どんな想いで乙歌は恋のライバルである茜のもとに俺を送り出したのか!?
あのモニターツアーの旅行先から茜が急に姿を消した
同じハンドボールを愛する乙歌、彼女の尊敬する茜がそんな無責任な真似をするには何か重大な意味があるはずだ。そう彼女は俺に言いたかったはずに違いない。
だからしっかりと二人で話し合いをして貰いたい。その一心で乙歌はこの場所に俺を送り出したんだ……。
俺は彼女の気持ちに報いるために茜からすべてを聞き出さなければならないんだ。
そうじゃなきゃ先に進むことは出来ない!!
「零ちん、お待たせ、コーヒーはブラックで良かったんだっけ?」
「茜、お前は何年俺の幼馴染をやっているんだ。甘々なラブコメと同じくお砂糖たっぷりのコーフィーをおっぱい。もといコーヒーを一杯だ!!」
茜がお茶の載ったトレーを持ちながら部屋に戻ってきた。俺は脊髄反射でいつもの茶番劇を繰り広げてしまったことを後悔した。空気を読まなすぎだったか!?
「ぷっ、あはははっ!! 零ちんはまったく変わらない平常運転で安心したよ」
これまで緊張気味だった茜の表情がほころぶ。笑い過ぎて両手で抱えたトレーのお茶をこぼさないようにするのがやっとの様子だ。俺はこの空気が和らいだ瞬間を逃すまいと単刀直入に質問をぶつける。
「茜、無事で良かった。ホテルから急にいなくなったから本当に心配したんだぞ。なんで俺からの通話に出なかったんだ?」
「……れ、零ちん、それは」
「俺はいろんなことを想像したよ。責任感のあるお前が指導を放り出して行くなんて、よっぽどの事情があるんだろうって。身内の不幸か!? 最初はそう思ったよ。だけどそれなら今回のモニターツアーの責任者として別のホテルに宿泊していた茜の母親も一緒に同行するはずだ。けれどもそれは違った。俺の親父に確認したがそんな事実はなかったから……」
茜は手にしていたままのトレーをベッドサイドのテーブルにゆっくりと置いた。
そして大きく深呼吸をしたのち真っ直ぐに俺の顔を見すえる。
「零ちん、すべてを話すわ。あの日、私が二人をお風呂に残してあの場を立ち去った
「茜、お前は先に電車で家に帰ったんじゃないのか!?」
「ううん、それは違う。私は母親の泊まったホテルに向かっていたの。事実を確かめるために」
茜の母親のホテルに!? そして事実を確かめるっていったい何の話だ!!
「俺はてっきり、お前は乙歌と俺を二人っきりにしたくてあの場から立ち去ったんだとばかり思っていた、なぜなら茜は俺に乙歌のエスコートを伝言していったから……。それは違うのか!?」
「確かに最初は複雑な気持ちも正直あったわ。乙歌ちゃんをあの個人レッスンの参加者にすることが……」
それはそうだろう。あんなにもどエロいカリキュラムを乙歌にこなさせるなんて。
まったく
「そうか、だから俺と乙歌を二人っきりにしたんだな……」
「そうね、零ちんは馬鹿でエロいことしか頭にないけど嫌がる女の子には絶対に手出しはしない。それが私の良く知っている野獣院零だから」
「……茜、お前はそんなふうに俺のことを」
「でもごめんね、それは私があの場所から立ち去った本当の理由じゃないの……」
「じゃあ、いったいなぜ!? お前は逃げるように消えちまったんだ!!」
言葉を濁す茜の真意が分からない。そんなに俺には言いづらい理由なのか!?
当初、勘違いした
「零ちんは自分のお父さんから本当にあの件を聞いていないの!? ああ、私が悪いんだ、先にホテルに押しかけて母親を問い詰めたから……」
「……いったい何の話だ!? 俺はまったく理由が分からないよ!!」
気が動転した俺の声色を聞いて観念したように茜が顔を上げた。そして彼女の口から発せられた言葉に……。
「零ちん、私たちは義理の兄妹になるのよ。親同士が再婚するの……」
俺は完全に言葉を失ってしまった……。
次回に続く。
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