可愛い女の子とお部屋で一緒に卒業式。そのに

「ま、麻衣っ、駄目だっ!! 俺たちは従兄弟いとこなのに……。ぶはっ!?」


 ……俺の悲痛な叫びは、たわわなおっぱいにかき消された。


 麻衣の着ている白いスエットの上半身に半分視界を奪われながら、必死にストップを掛ける。ギシギシとベッドが激しく音を立てて揺れた。


 麻衣のおっぱいがさらに視界を奪ってくる。二つのたわわな膨らみが圧倒的な

 ボリュームで俺にのし掛かってきた。普段の華奢きゃしゃな彼女からは想像出来ないが、もの凄い力で馬乗り状態にされベッドに組み伏せられて身動きが取れない。おっぱいの感触を楽しんでいる余裕なんかないとか言っている場合じゃない。


「おらあっ零、ジタバタするなぁ!! 生娘きむすめじゃあるまいし往生際が悪いんじゃ!!」


 突如狂犬のように牙を剥き、豹変してしまった古野谷麻衣ふるのやまい

 いったい彼女に何が起こったんだ!? 可憐な美少女にやくざのオッサンが乗り移ってしまったみたいだ。ラブコメ野郎なのが諸悪の根源だとかいって俺を手籠め《てごめ》にする勢いだ……。


 細かいことだが俺は男だから生娘きむすめじゃなく生息子きむすこなんですけど……。


『まいちょん、零くんを困らせないようお手柔らかにな……』


 具無理のマスターが言っていた言葉を思い出す。もしかしてマスターは最初から何か知っていたんじゃないのか!?


 麻衣が突然、豹変して狂犬モードになってしまうことについて……。


 下から麻衣を見上げる体勢になる。ベッドに倒れ込む際にもつれ合ったせいか、

 彼女の前髪も乱れ頬もすっかり上気して赤く彩られている。

 前髪の隙間から白いおでこがのぞく、今はドスの効いた声色だが間近で見るとやっぱり可愛い!! こんな緊迫した状態だが思わず俺は見惚れてしまった。


「嫌だ、嫌だと言いながら身体は正直じゃのう、ほれっ、これは何だ!?」


 むにゅう、ぐにぐにっ!!


「……あああっ、そこは駄目ぇ、そんなに上半身を刺激したら変になっちゃうよぉ!!」


 俺の中でが想像上の悲鳴を上げる。まるであべこべで男と女の立場が逆転状態だ。

 

「おふうっ!? 麻衣っ、ヤバいっ、零ちんが毎度お騒がせしちゃうよぉ!!」


 俺の上半身はおっぱい固めを決められガッチリホールドされている……。


「零、目をつぶってじっとしていればすぐ済むから観念せえ……。なあに天井の染みでも数えていたらあっという間や、天国見せたるさかい」


 耳元に甘い吐息と一緒に麻衣の声が耳元に流れ込む。


 おっぱいホールドを解かれやっと自由の身になる。ああ、窒息するかと思った。傍らに置かれた大きな熊のぬいぐるみが俺の視界の隅に入った。

 確か、ぬいぐるみを抱っこしないと眠れないと麻衣は言っていたな……。


 そのままダンスで鍛えた足を絡めてくる麻衣。まるで俺が抱き枕状態だ!?

 ああっ、ヤバい、ヤバすぎるぅ、俺は賢者モードを保てる自信が無くなってきた。


「零、オドレの全てを拝ませて貰ってええか~、ええのんか~~」


 一瞬、鶴光師匠の生き霊が憑依したかと錯覚する言葉を麻衣が口走った。

 俺の上半身の服の上からでも指先の繊細な動きがヤバい、思わず声が漏れてしまいそうになる。

 

 俺の脳内でドー◯ルマン刑事がビッグマグナムを取り出して、

 このド外道がぁ~~~!! と激しくアップをし始めた……。


「ま、麻衣、零ちん初めてだから優しくし……」


 ……俺はこのまま違う意味で卒業しちゃうのか!? 久しぶりに再会した従兄弟は

 見違えるほど可愛く成長していた。幼い頃、近所の公園で遊んでいたころは、

 どっちが男か分からないほどやんちゃなクソガキだった麻衣、良く蹴飛ばされて泣かされたな、零ちんは泣き虫だから駄目だって……。


 あのころも馬乗りになって喧嘩もしたけど仲は良かった。

 突然、会えなくなって随分俺は寂しい思いをしたんだぜ、麻衣。


 めくるめく悦楽に身をゆだねようとして観念した瞬間、

 俺は不意に幼い日々に麻衣から投げかけられた言葉を思い出してしまった……。


『零ちん、人の物は返さなきゃ駄目なんだよ、正しいおこないをして……』


 夕日が公園の遊具を照らす、あの時も麻衣は俺に馬乗りしていたんだ。

 泥だらけの顔をくしゃくしゃにして涙を浮かべる少女。

 あふれた涙の滴が俺の頬を濡らす。

 幼かった俺はただ茫然ぼうぜんと見つめるしかなかった。



 どうして麻衣はあんなに泣いていたんだろう……?



 ことがおとこの勲章な次回に続く!!


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