可愛い女の子のお部屋で一緒に卒業式。

「……麻衣、茜と乙歌について、ここまで話したことが全部だ。二人への俺の態度、優柔不断でひどいよな、どちらも同じに好きだなんて……」


 子供の頃、良く一緒に遊んだ従兄弟の古野谷麻衣ふるのやまい

 彼女になら不思議と何でも素直に相談が出来た。


 大切な二人の幼馴染みの思い出、茜と出掛けた休日の犬の散歩、

 乙歌が俺に見せたかった岬の風景、今でも思い出すだけで胸が苦しくなる。

 従兄弟の麻衣は黙って、これまでの幼馴染達との経緯に耳を傾けていたが、

 しばらく考えた後、俺を真っ直ぐに見据えて口を開いた。


「……女の子はうわべだけの言葉だけじゃ駄目、茜ちゃんと乙歌ちゃん、二人とも零ちんには行動で示して欲しいんだと思うよ」


 最初、麻衣の部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、壁に貼られたポスターを見て

 俺は腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。床に置かれたベットや机、

 他の調度品も女の子らしい部屋だが、麻衣の推し(?)のポスターは

 昭和の任侠スターの面々がずらりと飾られていたんだ。


 健さん、不良番長、勝新に、文太のアニィもいるぞ……。


(麻衣の推しメンって男は黙って任侠系なのか!?)


 だけど今は麻衣にそんな質問する雰囲気じゃないのは分かる。

 自分のことではないのに真剣に俺の話を聞いてくれていたから……。


「……女の子を二股を掛けるなんて最低、男の風上にも置けないって最初は本当に腹が立った。そんなの私の知っている零ちんじゃないって……」


「……俺は何も言い訳出来ないよ、麻衣」


 冷静な麻衣の口調に押し殺した激しい怒りを感じて俺はがっくりとこうべを垂れた。


「麻衣の親友の話を聞いてほしいの、私が君更津南女子に通っていることは話したよね」


 君更津南女子校、県内屈指のお嬢様女子校で乙歌おとかも同じ学校だ。

 でも何でこんなときに麻衣は友達の話をするんだ……。


「麻衣はこう見えても南女ダンス部で部長をやっていて、自慢じゃないけど結構有名な強豪校で部員も多くて大変なんだ。親友の女の子が副部長で支えてくれるから、ここまで頑張って来れたの……」


 親友のことを口にする麻衣の表情が一瞬やわらいだ。

 その微笑みにも友達と気の置けない関係なのが感じられる。


「親友の彼女には大好きな幼馴染みの男の子がいたんだけど、彼女には生い立ちの事情があって、彼と付き合うことにためらいがあったの。ううん、その事情だけが原因じゃない、彼は他の女の子からも好意を持たれていて、そのことを知った親友はとても悩み苦しんだ。最終的に彼女から身を引いて彼だけではなく私の前からも完全に姿を消した……」


「……麻衣、その状況って!?」


「今の零ちんによく似ているよね、二人の女の子の間で揺れ動いて……。親友と私は、ずっと友達でいよう!! そう言って誓い合った仲なのに。相談を受けて何も出来なかった自分が許せない。親友を選ばなかった彼を憎めたらどんなに楽だろう。だけどそれも無理だった。あんなに優しい彼じゃなくてチャラい軽薄男だったら憎めたのに……」


 麻衣は目に大粒の涙を浮かべていた。そしてその言葉は激しく俺の胸に突き刺さった。

 強く罵られた方がまだ楽だ。麻衣の親友が黙って姿を消した深い理由は分からない。だけど同じく二人の女の子、どちらか片方を傷つける。


 真剣に二人を愛すれば愛するほど、その傷は深くなる。親友の話をしたのは、

 俺に茨の道を進む決意はあるのかと問いたいんだ。悲しい結末にしない為に。


「……麻衣、俺はどうしたらいいんだ」


「……」


 無言でベットに腰掛けたまま麻衣は微動だにしない。

 完全に悲しませてしまったみたいだ。

 俺はソファーから立ち上がり、小刻みに震える彼女の肩にそっと手を掛けた。


「頼むよ、教えてくれないか、萌衣!!」


 思わず強めに肩を揺すってしまう。麻衣の身体が俺の腕に合わせて激しく揺れるが、それでも彼女は無言のままだ。


「……ごちゃごちゃ抜かすな、このアホンダラ」


 えっ、今の声は何!! 俺の耳がおかしくなったの!?


「またごっこ遊びか? クソガキのころから全然成長しとらんのお、このボケナスが!! どっちじゃワレ? 若きウェルテルか、ハムレットか?」


 お、俺の聞き間違いじゃない、可憐な麻衣の口から罵詈雑言ばりぞうごんが出ているんだ。


「ま、麻衣、ど、どうしたの!?」


 彼女の肩に掛けた両手があまりの驚きと恐怖でガタガタと震える。


「気安く触るな、このラブコメ野郎が!!」


「ひっひいいいっ、た、助けて!!」


 思わず首を絞められた鶏のような悲鳴が出てしまう……。


 がしっ!!


 もの凄い握力で腕を掴まれる、本当に麻衣なのか!?

 何か悪霊にでも憑依されてるみたいだ。


 ゆっくりと顔を上げた麻衣、その形相は怒りのオーラをまとっている。

 まさしく牙を剥いた狂犬のようだ……。


 後ろの壁に貼られた強面こわもての任侠スターと麻衣が一瞬、重なって見えた。


 ……完全に殺される!?


 俺は蛇に睨まれた蛙みたいに脂汗が額に流れるのを感じた。


「おわっ……!?」


 どさっ!!


 掴まれた腕が引っ張られ、そのまま俺はベッドになぎ倒された。

 顔からもんどりうって柔らかな布団に包まれたとかと思った。


 むにゅむにゅ♡


 こ、この感触は!?


 ま、麻衣のたわわなおっぱい!? 希少なパフィーニップルの乳首!! 後で相談したいと彼女が照れながら言っていた件を思いだす。


 俺の顔は二つの柔らかな膨らみに挟まれ、まるでおっぱいのパン食い競争状態だ。

 おふうっ!! 至高のぷっくり乳首っ!!


 だが俺の天国はそこまでだった……。


「……この糞ラブコメ野郎が、そんなに乳に埋もれるのが嬉しいか。そうだ零、ワレが色々とこじらせているのが全ての諸悪の根源なんじゃ。だからウジウジ悩んでいて昔から偉人ごっこする癖が治っとらん!! そんなモノ、わしが今すぐ卒業させてやる!!」


「ええっ!? 卒業ってな、何のこと!!」


 がしっ!! ぐうり、ぐうり!!


「ぐわっ!? い、息が出来ない、ぐ、ぐるしい……」


 狂犬モートになった麻衣にガッシリとヘッドロックされ、

 たわわなおっぱいで窒息しそうな俺、嬉しいが苦しい。

 何なの!? この天国と地獄を行ったり来たり状態は……。


 このままベッドで従兄弟の麻衣と違う意味で卒業式を迎えてしまうのか!?


 どうなる零ちん、十七年大切に守り通した男の操、

 男の子の一番大切なモノをあげるわ~~♪


 おギンギンに突っ張った男の勲章、その行方ゆくえはいったいどうなるのぉ!?



 怒涛の次回に続く!!


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