可愛い女の子とひとつ屋根の下で恋の進路指導。そのに

「じゃあ麻衣まいの部屋に行こっ♡」


「ま、麻衣ちゃん、いきなり部屋に行くの!? まだ外も明るいし、寝るのにはいくら何でも早すぎじゃない……」


「あっ!? ごめん、ごめん、久しぶりに零ちんに会えたのが嬉しくなって私、先走って暴走しちゃった……。おじいちゃんにも良くたしなめられるの、麻衣はあわてんぼうだって」


 昔懐かしい玉すだれの暖簾のれんをかき分け、二階の住居に続く中階段で足を止めた。古野谷麻衣ふるのやまい、俺の従兄弟いとこにあたる女の子だ。


 古い建物に増改築を繰り返しているようであちこちにつぎはぎの跡が見える。

 階段は結構な急角度で俺の先に立った彼女のショートパンツから伸びるすらりとした健康的な生足が上を見上げた俺の目線の先に来てしまい、そのふくらはぎの白さがしっかりと目に焼きついてしまった……。


「……零ちん、顔が真っ赤だよ、まだ具合悪いんじゃない? おじいちゃんから案内役を頼まれたけど万が一があったら心配だから、やっぱり案内する前に麻衣の部屋で休憩しよっか……」


「そ、そんなに俺の顔、真っ赤なの!? じゃあ、お願いしようかな……」


「それじゃ決まり!! 一番に麻衣の部屋に零ちんをご招待します」


 久しぶりに再会した従兄弟の生足に興奮しちゃって顔が真っ赤っかとは、絶対に悟られてはいけない……。

 嬉しそうに俺の手を握る女の子、振り向きざまに毛先に軽くウェーブの掛かった髪が軽快に揺れる。


「そういえば零ちんが私の家に遊びに来るって一度もなかったね。もちろん部屋にも来たこともないか。麻衣は前の家から引っ越しちゃったから当時の部屋じゃないし、あんまり綺麗じゃないから恥ずかしいけど……」


「も、もしかして麻衣ちゃん!! かなりの汚部屋おべやだったりして!?」


「零ちんの馬鹿!! そこまで汚くないし。子供のころの麻衣とは違うから……。それと私の名前、遊んでいたあのころみたいに麻衣って呼び捨てでいいよ。ちゃん付けって何だか他人行儀でこそばゆいから……」


 ニッコリと微笑む麻衣の口元から白い八重歯が見えた。とてもキュートな笑顔だ。

 俺がよこしまな視線を投げかけたことにもまったく気付く素振りがない。

 その笑顔を向けられた瞬間、俺は胸を射ぬかれた感覚に襲われてしまった。


 ……ま、麻衣、か、可愛いじゃねえか!!


 ドキドキと高鳴る胸、また俺の悪い癖が出てしまったみたいだ。

 女の子に優しくされると異常に惚れっぽくなる癖だ、いや悪癖あくへきと言っても過言ではない、この状態を発動すると俺は見境みさかいがなくなってしまうんだ。


 子どもの頃から何回、失敗してきたか両手両足でも数え切れないほどだ。

 俺のそんな行動は今なら冷静に分析が出来る。幼い頃に母親を亡くして人格形成上、一番重要な時期に母性の愛情に飢えていたんだろう……。


 俺は優しくしてくれる異性に強烈に惹かれてしまうんだ。幼馴染みの茜と乙歌、そして従兄弟の麻衣、性格はそれぞれ違うな。


 茜は子どものころから面倒見が良くて悪く言うとおせっかいな女の子。


 乙歌は自分のことをかえりみず、こんな駄目な俺に尽くしてくれる女の子。


 そして麻衣はどんな女の子に成長したんだろうか?


 ……茜と乙歌、二人は俺の大切な幼馴染みだ。


 二兎追うものは一兎も得ず。その言葉が今の俺に重くのし掛かってくる。

 どっちも失いたくないなんてあまりにムシが良すぎる。

 その答えを出すために俺はこの場所に来たんじゃないのか!?

 飛び切り可愛く成長した従兄弟の麻衣に見惚れてしまった。

 ミイラ取りがミイラになりかねない行動はつつむべきだぞ、零。


「何、ブツブツ一人で言ってるの、あっ、思い出したよ!! 懐かしいな、昔、麻衣と二人で一緒に遊んだとき、良くやっていた遊びだね!! 若きウェルテルの悩み? それともハムレット? 一体、どっちのごっこ遊びなのかなぁ……」


 ……何それ、全然覚えていないんだけど。俺はどれほど歪んだ子供だったんだ!?


「ええっ、まさか全然覚えてないの!? 他にも危ないごっこ遊びを零ちんは次々と発案、そして即実践してあの公園に出入り禁止になったほどだよ。しばらく二人っきりで遊べなくなって麻衣、とっても寂しかったんだから……」


 公園に出入り禁止って!? いったい俺は何をしたんだ。

 遊びの黒歴史、まったく覚えていない……。


「そうだ、お隣の茜ちゃん、元気にしてる? 二人で遊べなくなってから茜ちゃんを仲間に入れて三人で遊ぶようになったんだよね。公園は駄目だから近所の山に行ったり、子供にとってはちょっとした冒険だったね!!」 


「……!?」


 彼女の口から茜の名前が出て俺はぎくりとしてしまった。

 従兄弟の麻衣にときめいてしまった胸の内を見透かされたように……。

 同時に駅で茜と香坂のありえない組み合わせを目撃してしまった痛みもふたたび蘇ってくる。

 

「麻衣、じつは今、茜と俺は……」


「ストップ、ストップ、階段で立ち話なんてお客さんの零ちんに失礼だから。積もる話は麻衣の部屋で聞かせてよ、あっ、何、その困ったようなその顔は!? もしかして零ちんと茜ちゃんって付き合っているとか、うわっ、ヤバいかも!! う~~ん恋バナとか麻衣は大好物だから楽しみだなぁ♡」


「……あ、いや、ま、麻衣」


「照れなくてもいいから零ちん、早く部屋で聞かせて。麻衣の部屋、お茶もお菓子も完備だから!!」


 何だか変な展開になってきたぞ、可愛い女の子の部屋にお邪魔するのに、

 ただでさえ緊張でドキドキするが変な不安で脇汗が出てくるのはなぜ!?


 ドキドキと言うよりドクドクと俺の心臓が脈を打ち始めたんだ……。



 ※可愛い女の子のお部屋で抱き枕がわり!? 波乱の次回に続く。


 ───────────────────────


 ☆★☆ 執筆の励みになりますので少しでも面白かったら


 星の評価・作品フォロー・応援していただけるとうれしいですm(__)m ☆★☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る