もう一人の幼馴染との大切なおもいで……。
『……零お兄ちゃん、ちょっと歩くのが速いよ、もう少しゆっくりがいいな』
『
『あっ、ありがとう、また零お兄ちゃんに迷惑を掛けちゃったね、本当に私って足が遅いなぁ……』
『でも乙歌、身体は大丈夫なのか? 一時退院して家で倒れたって聞いたぞ、まだ出歩いちゃ駄目なんじゃないのか……』
『……平気だよ、零お兄ちゃんは心配症だなぁ、久しぶりに家に帰れてはしゃぎ過ぎただけだよ。私のお母さんは大げさに言うから乙歌、いつも恥ずかしいんだ』
『それなら安心だ。そうそう、お前がどうしても行ってみたいって言った場所、この道順で合ってるよな。それにしても案内の表示、適当すぎないか? 石段ばかりで歩きにくいし、ここの公園は広すぎだよな!!』
『看護師さんに教えて貰った地図には、そう書いてあるから間違いないと思う……』
『病院のすぐ側にこんなでっかい公園があるなんて俺、全然知らなかったよ』
『零お兄ちゃんは病院の正面玄関から外来窓口に直接、来るから知らないんだよ。私が入院しているのは新館の病棟だから、そこからは公園の景色が一望できるんだ』
『でもよ、何でこんなに急勾配なんだ!! それにいっぺん上がって下らせて入り口の案内に片道二十分位のハイキングコースって書いてあったけど、大人が駆け足しての間違いじゃねえの。俺たち小学生の足じゃ倍の時間は掛かるぜ、まったく……』
『……零お兄ちゃん、ごめんなさい、乙歌が行ってみたいなんてわがまま言ったから』
『お前を責めてる訳じゃねえよ、俺は適当な案内表示に文句を言ってんの。それに付き合ってやるって約束しただろ……』
『零お兄ちゃん、ありがとう……』
ふうっ、と大きく肩で息をしながら彼女は自分の
そして思い詰めたような表情になり、進行方向に広がる景色に視線を落とした。
俺のもう一人の大切な幼馴染み、
そうか、思い出の中の名字はまだ
俺、野獣院零は小学生の頃、不自由な右手のリハビリの一環で、
君更津中央病院に通院していた、乙歌とはそこで出会ったんだ。
『あなたは何の病気なの? どこも悪くないように見えるけど……』
『そっか、頭が悪いのか、お兄ちゃん、なんか馬鹿そうだもんね』
初対面の乙歌は屈託なく笑う女の子だった。高校生になって再会した彼女は、
時折寂しそうな表情を見せた。変わってしまった
変わったのは名字だけじゃないのだろうか……。
『おっ!! 曲がり角に大きな案内標識があるぞ。なになに【トンビに注意!! 食べ物を持って歩くのは危険】そんな間抜けもいるんだな、ははっ、正にトンビに油揚げじゃん』
『零お兄ちゃん、トンビに油揚げって何?』
『お前、そんなことも知らねえのかよ、トンビに油揚げってことわざだよ。せっかく自分が大事にしていた物を、なんも苦労しない奴にいいとこ取りされるって意味』
『ふうん、乙歌知らなかった。零お兄ちゃんって物知りだね!!』
『まあな、昔のことわざは役に立つから覚えておいて損は無いって、お祖母ちゃんが良く教えてくれるんだ……』
『……でも本当にトンビに襲われたら怖い、お兄ちゃんと岬の展望台で食べようと思って私、お弁当を持ってきたんだ』
『ばっか、心配するな、たかがトンビごときに俺様がビビるかよ。襲ってきたら逆に撃退してやるから!!』
『零お兄ちゃん、かっこいい……。絶対、乙歌のこと守ってね、約束だよ!!』
俺は警告看板の中で羽ばたくトンビのイラストに向かって、グーパンチで殴る仕草を見せた、その時の俺はトンビなんてスズメに毛が生えた位の鳥だろうと侮っていたが、それは大きな間違いだと知るのはもっと後の話だ……。
木々の合間から太陽の日差しが幾重にも差しこみ、光の束が汗ばんだ俺達の顔に当たる、思わず目が眩みそうだ……。
『零お兄ちゃん、前を見て!!』
心地よい海風が俺たちの髪を揺らす。
次の瞬間、一気に視界がクリアになった。
『わあっ!! 海だ……』
隣で乙歌が歓声を上げる。
パノラマのように芝生の草原が広がり、その先に広大な海が見えた。
『綺麗……』
もうすぐ桜が開花する季節なのに今日はやけに肌寒く感じる。
繋いだ手のひらから乙歌のぬくもりが感じられた……。
体調がすぐれないのに彼女がどうしてもこの場所に行きたいと言った
俺の手を握り返してくる彼女の指先から本当の想いが伝わってきた気がした。
乙歌は自分が海を見たかったんじゃない、俺にこの景色を見せたかったんだ……。
『零お兄ちゃん、大好きだよ……」
大切な幼馴染が
次回に続く。
☆☆☆お礼・お願い☆☆☆
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!
少しでも面白いと思っていただけましたら、
レビューの星★★★でご評価頂けたら嬉しいです。
つまらならければ星★一つでも結構です。
今後の励みやご意見を参考にしたいので、
何卒お願いしますm(__)m
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