大切なことはすべて可愛い妹系幼馴染が教えてくれた……。

 ――露天風呂から上がると部屋にあかねの姿はなかった。


「あれっ、コンビニに買い出しにでも行ったのかな?」


れいお兄ちゃん、テーブルの上にこんな書き置きがありました。茜さんからです!!」


 乙歌おとかが茜からの手紙を見つけて俺に教えてくれた。

 ホテルの部屋に備え付けられた便箋に書かれていた内容は……。



 *******



 ……零ちん、黙って部屋を出ていってしまい本当にゴメンなさい。


 ある事情で急遽、席を外すことになりました。

 いっしょのお泊り、あんなに楽しみにしていたのに残念です……。

 今夜の個人レッスンメニューはファイルにして置いてあります。

 乙歌ちゃんにも零ちんから謝っておいてください。

 この埋め合わせは後で必ずします。


 こんなことを零ちんにお願いするのは本当に勝手だと思うけど、

 今夜の乙歌ちゃんのエスコートをお願いします。

 この後のプランもメモしてあります。


 美馬 茜



 ******* 



「……茜、急用って何なんだよ!? くそっ、携帯も繋がらない……」


 あまりの展開に思わず取り乱してしまう、茜の携帯は通話もメッセージも繋がらなかった。


「そう言えば茜さん、露天風呂に入る前に誰かと電話してました。後でかけ直すって言ってました……」


 乙歌の言葉に俺は確信した、きっとその電話が原因だ。

 茜もあれほど楽しみしていた個人レッスン、それを取りやめて

 部屋を出ていかないといけない用事っていったい何なんだ!!

 せめて茜が悲しむことでなければいいのだが……。


 風呂上がりで火照った身体がさらに重だるい……。まるでなまりのように感じられた。


「零お兄ちゃん大丈夫ですか!? 顔色が良くないですよ」


 よほど俺は青ざめた顔をしていたんだろう。乙歌は俺のかたわらに寄り添ってくれて、そのまま部屋の奥にあるベッドに腰掛けさせてくれた。


「……ありがとう乙歌、少し休めば大丈夫だよ、取り乱してごめんね」


「良かった、零お兄ちゃん、また具合が悪くなったのかと心配しちゃいました」


 露天風呂でも心配を掛けてしまった。乙歌の献身的けんしんてきな看病に俺は助けられたんだ。

 氷嚢ひょうのうで天国へ昇天するのはギリギリで回避出来た。


『零お兄ちゃんのこと、乙歌が絶対に守るから!!』


 彼女の真摯しんしな告白を受けたのと、アイスジェルで冷やされた俺のがビッグマグナムサイズから可愛らしいデリンジャーサイズになったことで危険な暴発事故を防げたんだ。


 固めのベットに腰掛けた俺の身体に心配そうに寄り添う彼女の暖かさが心地よい。

 ほのかに漂うシャンプーの香りに誘われ乙歌の横顔にそっと視線を落とした。

 風呂上がりの濡れ髪が桜色に上気した頬に掛かる。その様子に見惚れないはずがない。


「……零お兄ちゃん、私の顔に何かついてますか?」


「えっ、どうしてそんなことを聞くの!!」


「だって、乙歌のこと、じっと見つめてるから……」


「「……」」


 俺の肩に密着した細い身体が急速に強張るのが感じられた。

 先ほどまでは桜色だった頬がみるみる真紅に染まる。


「……あっ!?」


「……おっ!?」


 お互いに言葉を発するタイミングが重なってしまった。


「れ、零お兄ちゃんからお先にどうぞ……」


「お、乙歌こそ、先に話してよ……」


 ……気まずい、何やってんだ俺たちは。


 ぎくしゃくとした空気が二人の間に流れる。


 先ほどまでは穴が開くほどその横顔を見つめていたのに、強烈に彼女を意識してしまい、俺は隣に視線を向けることが出来なくなってしまった。


 ……ごくり。


 固唾かたずを飲み込む音が彼女に聞こえてしまわないのだろうか?


「……れ、零お兄ちゃん、あ、あの」


 二人の間に流れる重くるしい沈黙を破ったのは彼女のほうが先だった。


「零お兄ちゃんにとって私は妹みたいな存在ですか? それともただの幼馴染み……」


 俺は乙歌の質問の意味が瞬時に理解出来なかった。

 妹と幼馴染みって何だ!?


「そうだな、乙歌が俺の妹だったら毎日が最高かもな……」


 何気なく口をついて出た言葉が彼女にとって、どんなに残酷な意味を持つか俺は知らなかった……。


「私はそんなの嫌です!! 妹のままなんて……」


 乙歌が珍しく感情をむき出しにして叫ぶ。


「……零お兄ちゃん、私を見てくれませんか」


 俺は彼女の行動に驚きを隠せなかった。


「お、乙歌、お前、何をするんだ!?」



 乙歌決意の次回に続く!!



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