幼馴染と秘密のお泊り。そのに
「……零ちん、ヘッドフォンの掛け方はこれでいいのかな?」
茜が不安げな表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。
その姿を見て思わず吹き出してしまった……。
「ぷっ、あははっ、茜、ヘッドフォンの向きをさかさまに掛けてるぞ!! それじゃあカチューシャだから……」
茜は首掛け式のヘットフォンを逆さまの向きで頭に装着していた、
その格好はまるで髪留めのカチューシャさながらだった。
相変わらず旅行先でも俺の前だけポンコツ可愛い奴だな……。
「だってぇ、こんなの付け方がわかんないよ!! 普通のヘッドフォンと全然違うし何でこんなに変わった形なの!?」
今回のモニターツアーで俺たちが借りたヘットフォンは
実際の街なかの景色に架空のキャラクターが表示されるAR現実の世界は位置情報のゲームアプリでもすでにお馴染みの技術だが、さらにARサウンドは街中を歩いているとキャラクターから話し掛けられるんだ。まるで自分の隣に相手が存在しているような感覚、キャラクターの息使いまで感じられる。
聖地巡礼にこれほど適したアプリは他には存在しないだろう。
「普通の耳を
「そうね、零ちんとお話が出来ないとつまらないし、これなら景色のいい場所で写真撮影をするときにも気軽に声を掛けられるしね!!」
茜がヘッドフォンを正しく頭に掛け直しながら俺にむかって
今日の茜の出で立ちはふわりとした清楚系な白いワンピース、
普段のガーリーチックな服装ではない。
「……零ちん、何、さっきから茜のことをじっくり見つめてるの!? なんだか照れくさいんだけど」
「い、いや、いつもの茜と雰囲気が違うなって……。最初から感じていたんだけど」
「零ちん、やっとこの服装に気がついてくれたんだ……」
茜は両頬に笑みを浮かべながらぽつりとつぶやいた。
俺は笑顔の意味が分からず、どきまぎするしかなかった。
「べ、別に可愛いなんて言わないぞ、いつもの量産型よりはましなだけだから……」
「零ちん、量産型って何?」
「量産型女子って言葉を知らないのか、同じような服や髪型をしている女の子のことだよ。クラスの女子もふくめて全然見分けがつかないだろ……」
「ひどい!! 女の子は誰でもお洒落のために毎日、鏡の前で頑張っているんだよ。それを量産型なんて……。人をガンプラみたいに言わないで!!」
「ごめん、ちょっと言い過ぎた……。 お詫びにお昼ご飯をおごるから勘弁してくれ」
照れ隠しとはいえ必要以上に女性をディスってしまった……。
まだ旅行も始まったばかりだ、茜と喧嘩をしないように気を付けなければ。
「零ちん、食べ物を与えておけばいつでも機嫌が直るとか思ってない?」
「そんなこと思ってないよ!! 本当は茜のワンピースが可愛くて褒めてあげたかっただけなんだよ、俺の言いかたが悪くてごめん……」
「あかねのことを可愛いって!?」
茜は大きな瞳をさらに見開いて驚きの表情を浮かべた。
「あ、ありがとう、零ちん、この旅行のためにワンピースを新調したから可愛いって言って貰えてすごく嬉しいよ……」
茜の真っ赤に染まった頬がワンピースの白さをさらに引き立てた。
【ぴんぽん、ぴんぽん】
ヘッドフォンから突然音声が流れてくる。特定のスポットに到着するとスマホのGPSと連動して音声ガイドが始まるんだ。
【スマホ画面のARカメラボタンをタップすると、この場所で記念写真が撮れちゃうよ!! 旅行の思い出をいっぱい残してね!!】
音声ガイドで撮影スポットを教えてくれた。俺はARカメラボタンを探すためにスマホ画面を確認する。
「……このワンピースは!?」
スマホの画面に銀色の髪の少女がAR画像で現実の街並みに表示される。
少女が着る白いレースのワンピース、その姿を見た瞬間、俺は過去の出来事を急に思い出した……。
『茜ね、零ちんのことが大好きだよ、大人になったらお嫁さんにしてね!!』
小学生の頃の記憶が蘇る。放課後の通学路、夕暮れの河原を歩きながら茜が俺にむかって話してくれた約束、肩まで伸びる黒髪には黄色い帽子がよく似合う。
傾いた夕日が彼女の背負ったランドセルをさらに赤く染めあげ、水面の反射と相まって茜の笑顔がいっそう
あの日、俺のことを大好きだと告白してくれた茜は白いワンピースを着ていた。
俺は大切なことをいままで忘れていたんだ。細部は違うが同じ白のワンピース、
茜が今日の服装を選んだ
だからいつもと雰囲気が違ったのか。そのことに気がつかない俺はなんて間抜けなんだろう。
「茜、そこに立ってくれるか、聖地巡礼に来て初めての記念写真を撮ろう……」
「うん、いいよ、零ちん、きれいに撮ってね!!」
液晶画面の中の茜は最高の笑顔を俺にむけて微笑んでくれた。
隣に立つAR画像の少女と同じ白いワンピースをまとって……。
「よし、茜、撮るぞ!!」
スマホ画面をタップして俺たちにとって特別な一枚を撮影した……。
次回に続く。
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