清楚系美少女のセーラー服と一晩中 そのよん

 ……俺はラブコメが大好きだ!!


 文字通り三度の飯より好きだ。どれほど俺がラブコメに情熱を注いでいるのか? この場を借りて話しておこう。先日有名ラノベレーベルの発刊ラッシュがあり、俺はなけなしのお小遣いを全額つぎ込んで欲しい本をすべて購入してしまった。その後の俺の生活が悲惨だったことは言うまでもない……。


 だけど不思議と後悔の念には駆られなかった。なぜなら甘々なラブコメを読んでいる時間が俺にとっては何よりの幸せだったから。


 購入した作品の中でひときわ気に入ったシチュエーションがあった。

 それは偶然キスをしてから恋が始まるボーイミーツガールラブコメだ。朝、遅刻しそうになったヒロインが通学路の曲がり角でイケメン男子と出会いがしらにぶつかるという超絶にベタな、いや古典的な出会い。ヒロインの口にはパンをくわえているのはもちろんお約束だ。


 最近のラブコメは商業作品、アマチュア問わず、変化球ばかり多くて疲れてしまわないのだろうか!? 確かにセンセーショナルな設定は読者の目を惹くだろう……。


 だが俺は今のラブコメ界にあえて苦言をていしたいことがある!!


 ラブコメが冒頭から本番えっちな行為をするのはいくら何でもおかしいと思う。これはあくまで個人の感想だが俺は恋愛のじれじれをまったりと楽しみたいんだ。

 主人公とヒロインとの関係性は牛歩ぎゅうほの進展でもまったく構わない。

 その過程の中で男主人公が巻き起こすラッキースケベによって恋愛をつむいでいくのが真の王道ラブコメではないだろうか!?


 ラブコメを愛するがゆえに俺は今の状況を激しくうれいているんだ。

 

 ……ふう、ふうっ!! 愛するラブコメの話になるとかなり熱くなってしまうな。


 この件については賛否両論さんぴりょうろんもあると思うので、ぜひ応援コメントで意見してくれると零ちんは嬉しい。中の人などいないがきっと喜ぶと思うぞ!!


 おっと話を戻そう。偶然にキスするとかラブコメの中でしか起きないイベントだと俺はこれまでずっと信じていた。


 そう、この瞬間ときまでは……。



 *******



「んっ、ふうっ♡」


 乙歌ちゃんの甘い吐息が直接、俺の口腔に吹き込まれる。

 こんなに柔らかい物がこの世に存在していることに心底驚いてしまった。

 キングオブ童貞の俺にとってはキスなんて想像するしかない行為のひとつだったんだ……。


 どん引きされるかもしれないが抱き枕で練習をしたことは一度や二度ではない!! こんな練習が役に立つ日がはたして俺には訪れるのだろうか? 

 我に返って考えたら負けだ。自己嫌悪で押し潰されそうになってしまうから……。

 この行為は男子高校生が抱えまくった青春のリビドーを発散するためには必要な通過儀礼つうかぎれいだからだ。


 だけどそんな抱き枕の練習では分からなかった……。

 本物の女の子の唇がこれほどまで柔らかいなんて!? 


 ハンモックの中で激しくもつれ合う。そんな不安定な状況がお互いを加速度的に求め合う言い訳を与えてしまった……。


「ちゅっ、ちゅっ、ふうっ、ぷはぁっ♡」


 まるで小鳥が餌をついばむような仕草で乙歌ちゃんが俺の唇を求めてくる。

 俺は意識が飛んでしまうぐらい激しく興奮してしまった……。


 このまま彼女の唇をむさぼりたい、欲望に身を任せてしまえばどんなに楽だろうか!?

 キスだけじゃない!! その先にある行為をすべてかなえられるかもしれない。


 乙歌ちゃんに溺れてみたい……。唇だけじゃなく俺の腕に押し当てられた

 柔らかなおっぱいも全部!!


 俺は快楽と言う名のシフトレバーにその手を伸ばしかけた……。


『零、駄目!! そこから先に進んだら絶対にあなたは後悔する』


 ……突然、声が聞こえた気がした。


 語りかけてくるような声は強烈なメッセージとして俺の頭のなかで鳴り響いた。どこか懐かしいこの声の持ち主はいったい!?

 その声が誰だったのかは未だに定かではない。だけど俺を正しく導いてくれる人物で間違いはないと本能的に理解出来たんだ……。


「……わかったよ」


 そして俺は断腸だんちょうの思いで決断した。自分が納得できる最善の行動を取るべきだと……。


 目を閉じたままの彼女からゆっくりと唇を離して、その震える肩を俺は優しく抱きしめた。


「ごめん、乙歌ちゃん……。偶然アクシデントとはいえ君にキスをしてしまった俺をどうか許して欲しい」


「……れ、零お兄ちゃん!?」


 不安定なハンモックが左右に揺れ、乙歌ちゃんは俺の身体の上で半身を起こす姿勢になる。まだ茫然自失ぼうぜんししつしたままで自分の身に起こったことが良く理解出来ていないようだ。焦点の定まらない瞳に少しずつ光彩こうさいが戻り始め、やっと彼女は我に返る。


「わ、私が、れ、零お兄ちゃんとキスしちゃうなんて……」


 俺と交わしたキスの感触を確かめるように、人差し指でみずからの唇に触れる。

 乙歌ちゃんの白い頬がこれ以上はないほど真っ赤に染め上げられた。


「……話を聞いてくれるかな、前に病院のベッドで俺をテストしたことがあったよね。一時の欲望に負けて本性をむき出しにしたら不合格だったはずだ。そして合格を告げるときに君が俺に見せてくれた飛び切りの笑顔を絶対に曇らせたくはないんだ!!」


 やせ我慢と言われても構わない。俺はこれからの人生で自分の思う理想のラブコメを作りたい。煩悩ぼんのうフラグなんか何本でもへし折るつもりで!!


 そうだ!! 野獣院が野獣になるにはまだ早すぎるから……。


「零お兄ちゃんは子供の頃とまったく変わっていないんですね……」


「……えっ、子供の頃の俺って、どうして乙歌ちゃんが!?」


 俺の顔にぽつりぽつりと水滴が落ちてくる。これは乙歌ちゃんの!?

 彼女は泣いていた。止めどなくあふれる大粒の涙、頬からあごに掛けてのラインを伝わって落ちる涙のしずく


「ごめんなさい、大好きな零お兄ちゃんの前では絶対に涙は見せないって決めていたのに……。だけど無理ですね、こんなにも大切にされたら女の子は泣いてしまいます」


 泣いているはずなのに彼女の表情はどこか晴れやかだった。

 その涙の意味を理解出来るほど俺は大人ではなく恋愛経験も人生経験も足りない子供ガキだった……。



 次回に続く。


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