清楚系美少女と一緒にないしょのお買い物。

「零ちん、お泊まりの用意はちゃんと自分でしてね。いつも忘れ物が多いんだから……」


 茜の言うとおり俺は昔から注意欠陥なところがある。旅行の前日にチェックリストを作ってもらっても忘れ物をしてしまうぐらいだ……。

 そそっかしいでは済まないレベルで幼馴染みの茜だから見放されないのだと思う。


「もう子供じゃないし今回は自分で用意するから、これからは茜を心配させたりしないよ」


「どうしたの!? いつもなら世話焼きの茜のことがウザいって言うのに……。なんだか人が変わったみたい」


 今までと違う俺の態度に驚いたようだ。ずっと茜の手を焼かせるわけにはいかない。これからはただの幼馴染みじゃなく一人前の男として認めて貰うんだ。


「じゃあ、さっそく俺は旅行に必要な物の買い出しに行ってくるから!!」


「あっ、零ちん、一人で大丈夫?」


「馬鹿、もう子供じゃないって言ったばかりだろう!!」


 俺は茜に褒められたことがとても嬉しかった。軽い足取りで茜の部屋をあとにする。

 このまま家に戻らずに旅行の準備をしよう。善は急げというからな。

 他県に旅行に行くのは久しぶりだ。お泊まりグッズの用意の買い物といえば、

 貧乏高校生の強い味方、百円ショップだろう……。


 たしか駅前に大型店舗があったな。俺はリュックを背負い自転車を漕ぎ出した。日没後の気温は思ったより肌寒い、もう少し厚着をしてくるべきだった。


 今回のモニターツアーの場所は俺の住む千葉県よりかなり寒暖の差が激しいようだ。厚手のダウンジャケットが必要かもしれない。それも後で準備しなきゃな。


 しばらく俺は駅前にむかって自転車を走らせた。ピンクに白文字の看板が見えてくる、業界最大手の百円均一ショップだ。

 帰宅ラッシュの時間帯だからか駐輪場も止める場所に悩むほど混んでいる。

 俺は何とか空いている隙間に自転車を停めて店内へとむかう。


 明るい店内は所狭しと商品が並べられ、こういう店に滅多に来ない俺はどこに何があるか分からなくて広い店内を歩き回ってしまった。

 茜が一緒の買い物だったら指示に従えば、てきぱきと買い物を済ませられるのに……。


 はっ!? さっき茜の家で俺は宣言したばかりじゃないか。一人で買い物ぐらい出来なきゃ駄目だ。俺は携帯のメモアプリを起動して必要な物のチェックリストを作成した。



 *******



 時間は掛かったがおおむね準備は出来た。買い物かごが一杯になるぐらい選んだぞ。これだけ買っても一個百円で合計金額もお財布に優しいからとても助かる……。

 レジに並び会計を待つ。混雑していて複数有るレジがどれも行列だ。


 レジ待ちの間にふと店内を見渡すと、ひときわ目をく制服姿の美少女が!!

 セーラー服のスカートからのぞいた形の良いふくらはぎのラインに俺は目を奪われる。香坂乙歌こうさかおとかちゃんだ!! 怪我はもう大丈夫みたいだな……。

でも何か様子が変だぞ、レジから少し離れた陳列棚の前で一点をじっと見つめている。よし、声を掛けてみるか……。


「こんばんは、乙歌ちゃん、買い物の途中?」


「あっ、えっ!? れ、零お兄ちゃん、どうしてここにいるんですか!!」


 急に声を掛けられ驚かせてしまったようだ。ハンドボール部の練習帰りなのか学校名の入った大きめのスポーツバックを足元に置いていた。


「俺も買い物だよ、何だかびっくりさせちゃったみたいだね……」


「あ、は、はい……。大丈夫です」


 乙歌ちゃんが俺の顔と横の陳列棚を交互に見た。いったい何だ?

 彼女の視線の先には可愛い熊のぬいぐるみがあった。見本品と表示があり大小様々なサイズのぬいぐるみが陳列されていた。

 説明のポップを見るとシールキャンペーンと書いてあり買い物に応じて

 シールを貰って規定枚数集めると格安な価格で手に入るようだ。

 俺はそのテディベアを彼女が穴が開くほど見つめていたのがとても気になった。


「乙歌ちゃん、もしかしてこの熊のぬいぐるみが欲しいの?」


「えっ、何で零お兄ちゃんには分かるんですか!! 私がこのテディベアのジョン君をおうちにお迎えしたいってことが……」


 真っ赤になってうろたえる乙歌ちゃん、とっても可愛いな。そんなのは言わなくても顔に書いてあるから。あれだけ真剣に熊のぬいぐるみを見つめていれば誰だって気が付くさ。


「でも何を悩んでいたの? そんなに欲しいなら熊のぬいぐるみ買えばいいのに」


「普通に買えないから駄目なんです、シールを規定枚数集めなければ……」


 乙歌ちゃんは途端に悲しそうな面持ちになり俺にシールの応募用紙を見せてくれた。


 確かに希望のテディベアを購入出来る規定数にシールが達していない。

 あと十枚必要だ。説明書きによれば一回三百円の買い物でシール一枚だから残り三千円分の商品購入が必要な計算になる。


「実は今回、規定枚数までシールを頑張って集めたんです。私の為に家族も協力してくれて……。なのにお店に来る途中でシールを紛失してしまったんです。応募用紙に貼らなかった私の不注意なんですが……」


 それはとてもがっかりするだろうな。だけど前に香坂こうさか家を謝罪のために訪問した際に下世話だがかなり裕福そうな家庭に感じた。わざわざそんな苦労をしなくとも他のお店でぬいぐるみは買えるんじゃないのか。


「他のお店では売ってないの? このぬいぐるみ、書いてある価格もそんなに高いとは思えないし……」


 俺の言葉を聞いた途端に乙歌ちゃんの表情が曇ってしまった。


 ……マズい、どうやら俺はデリカシーのないことを言ってしまったみたいだ。

 迂闊うかつな発言だったことを彼女の表情から察知した。


「零お兄ちゃん、ごめんなさい。それは私の変なこだわりなんです……。この熊ちゃんはハニーテディベアと言って本来は小さな子供が抱きしめる目的で作られていて、 手触りもふわふわと柔らかで素材も吟味ぎんみしています。子供の頃からテディベアが大好きで高校生の私が買える範囲で集めるのが趣味でした……。お人形も一緒なんですけどテディベアも出会いはえんみたいなものでお気に入りの子は値段やブランドじゃないんです」


 普段は物静かな乙歌ちゃんがテディベアについて熱く説明してくれた。

 俺には彼女の熱心に語る横顔が、愛くるしいぬいぐるみに負けないほど輝いて見えた。


「……このキャンペーンは大人気で在庫限りで終了なんです。残念ですけど私の落ち度なので今回はきっぱりとあきらめます」


 無理に気丈な笑顔を作る乙歌ちゃん。俺は彼女に何かしてやれないのだろうか?

 何とか残りのシールを集められれば……。


 その時、自分の買い物かごの重さに気が付いた。そうだ、これを使えば!!


「乙歌ちゃん、シールの応募台紙を俺に貸してくれない」


「えっ!? 零お兄ちゃん、一体どうするんですか?」


「まあ、見ててごらん!!」


 俺はシールの応募台紙を受け取るとそのままレジに向かった。

 先ほどの混雑は解消されレジは空いていた。今がチャンスだ。

 急いで買い物かごをレジに出すと店員さんから告げられた。


「毎度ありがとうございます!! お客様、キャンペーンシールは集められてますか?」


 レジ担当の店員さんに向かって笑顔で答える。


「俺はシールを集めてません、だけど本当に必要とする女の子の為に貰います!!」


 感じの良さそうな女性店員さんは一瞬、俺の言葉に驚いたが俺の視線の先に居る女の子の存在に気が付いてくれた。

 乙歌ちゃんは見本のテディベアのジョン君を自分の腕にしっかりと抱っこしていた。


 店員さんはすべてを理解してくれたようで、俺に向かってにっこりと微笑んでくれた。


「ジョン君のぬいぐるみは最後の一つでしたよ、彼女さん良かったですね!!」


「あっ、ありがとうございます!!」


 

 *******



「……零お兄ちゃん、いったいどうしたんですか?」


 レジを抜けた先に乙歌ちゃんが待っていた。

 俺は背中に隠していた左手を彼女の前にそっと差しだした。


「わあっ、このぬいぐるみは!!」


 乙歌ちゃんが幼い少女に戻ったような無邪気な笑顔で俺を迎えてくれる。良かった!! こんなに彼女に喜んで貰えるなら……。


「……零お兄ちゃん、とっても嬉しいです」


 透明な袋に入ったテディベアのぬいぐるみ、ジョン君だ。

 愛くるしいお目々、袋の上からでも分かるもふもふした手触り、結構大きめなサイズで乙歌ちゃんの顔が隠れそうなほどだ。


「僕、ジョン君、可愛い女の子が大好きなんだ!! ねえ、君のお家で一緒にベッドで寝かせてよ!!」


 俺はおどけて腹話術みたいに声色を使って可愛いジョン君に自分の本音を言わせた。愛くるしい熊ちゃんのぬいぐるみなら女の子と添い寝し放題だし本当に羨ましいかぎりだ。


【もう!! 零お兄ちゃんったら調子に乗りすぎですよ……】


 俺は乙歌ちゃんからこんな言葉で、馬鹿な冗談と笑い飛ばされると思った。


「……イイですよ」


 えっ、俺の耳がおかしいの!? どうせぬいぐるみのジョン君と添い寝するとかのオチに決まってるよね?



「零お兄ちゃんとなら乙歌、一緒のベッドで寝ても大丈夫です……」


 ええっ、乙歌ちゃん、それ本気なの!? さすがに自分の家は無理なんじゃないか……。って何を真に受けてるんだ。自重じちょうするんだ零ちん!!



「……病院で零お兄ちゃんが私に約束してくれた何でもお願いを聞く券って、たしか五枚分有効でしたよね」


 俺が君更津中央病院で安請け合いしてしまったあの一件だ。

 乙歌ちゃんのお願いを何でも五回分従う約束のことだ。一枚目はすでにお願いされていて、ハンドボールで茜を尊敬する彼女が自分も自己改革の目的で夜のエロい個人レッスンに参加したいと俺にお願いしてきたんだ。



「何でも言うこと聞く券、二枚目をここで使用します。今夜私と一緒に過ごしてもらえませんか……」



 禁断の次回「清楚系美少女のセーラー服と一晩中」に続く。

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