清楚系美少女と病院のベッドで課外授業。そのさん
病室のベッド、その狭い空間の中で俺と乙歌ちゃんはお互いの顔を至近距離で見つめ合っていた。沈黙がとても長く感じてしまう。触れた俺の腕から彼女のセーラー服越しの身体のこわばりまでこちらに伝わってきた。出逢ったときと同じ石鹸の甘い香りが俺の鼻腔に届く。
ごくり、
俺の固唾を飲み込む音だけが静かな病室に響いた。
「「……」」
長い沈黙を最初に破ったのは彼女のほうが先だった。
「……零お兄ちゃんには誰か好きな人がいますか?」
「えっ!? 何、乙歌ちゃん」
この場を切り抜ける為の質問とはとても思えなかった。なぜなら乙歌ちゃんの表情は真剣そのものだったから。彼女は何故、俺にそんな質問をしたのだろうか?
その答えが分かるほど俺は大人じゃなかった……。
彼女の抱える悩みに触れた瞬間だった。それだけはなぜか確信が持てたんだ。
俺は彼女と前に会ったことがあるのか? いや、それは気のせいだろう。こんな清楚な美少女のことを俺が忘れるわけがない。
『こ、この人、痴漢です!! 誰か助けて!!』
片想いの無自覚巨乳な幼馴染み、
リア充爆発しろ!! と今までは呪う立場から逆転すると、人は勝手なもので不遇の時代をすぐに忘れ去ってしまう。
――調子に乗ると人間ろくなことがないぞ。
『なにごとも腹八分目が良いんだ。食べ過ぎるとすぐに眠くなるだろう。零、お前に子供の頃から野獣になれと言ってきた話と繋がるが、学校の歴史の授業で縄文時代や弥生時代のことは勉強したと思うが狩猟民族だった縄文時代は驚く程、長い
これは俺の親父の持論だ。確かに炭水化物のご飯やパンを始め手軽に満腹感を得られる食材は素晴らしいし、本当にコストも掛からない。現代人には欠かせない物だろう。
しかし親父の言わんとする意味は、ゼロか百かの緊張に
草食動物になるな。血肉をくらう野獣になれ!!
それが野獣院家の家訓だと……。
俺は真の意味で野獣になれるのだろうか?
目をつぶってしばしの
「……俺は乙歌ちゃんに全力で謝らなければならない。まだ君のことを良く知らない。それなのに健全な男子高校生として魅力的な君の身体に触れて、
「……零お兄ちゃん」
俺の言葉に驚いたのか、ただでさえ大きな彼女の目がさらに見開かれる。
俺がラブコメ好きなのは前にも話したと思うが、かなりの数を読破したうえで言わせて貰いたいことがある。
確かにラブコメにはラッキースケベが必須項目だ。にわとりが先か、卵か先かくらい二つは密接関な関係だ。
俺には小説を書く才能がない。一度ラブコメを自分で書いたことがあるが、漫画も同じだと思うがまずプロットと呼ばれる物語の構成を決める物を作る。
それにそって物語を書き始めるんだ。確かにそれが創作のセオリーだろう。
俺は習作も含めて何本か書き上げてみた。まるで自分が神様になったような気分だった。
『ここでヒロインを死亡させて話を盛り上げよう……』
自分が作り上げた愛すべきキャラクター、確かに架空の存在だ。
だけど作者は何をしてもいいのだろうか?
もちろん色々な考えかたがあり、その全て否定するわけではないが俺は強い違和感を感じて創作の道を諦めた。
自分が作り出したキャラクターをただの装置だと思ってはいないか?
そうとしか考えていない作品には人を惹き付ける魅力はない。
俺はその考えかたが出来たときに初めて
今まで俺が夢中になった作品には共通していることがある。その作品に登場するキャラクターはいつしか作者の
俺はあやうく欲望に負けて自分を見失うところだった。乙歌ちゃんとの出会いも俺の人生の中で偶然でなく必然なんだ。彼女をもっと深く知ってからじゃないと手を出しては駄目だ。一時の快楽に溺れてしまっては乙歌ちゃんの魂を汚してしまう。
「……乙歌ちゃん、さっきの質問の答え、君にはちゃんと話しておきたい」
「は、はい!!」
「俺には昔から好きな人がいます。片想いの幼馴染の女の子。だけどその相手には別に意中の人がいて……。とても
初めて自分の素直な気持ちを人に伝えられた……。
言葉が自然と敬語になった。綺麗な言葉は口に出すと気持ちがいいんだな。そして先ほどまでの煩悩が嘘みたいに消えていくのか感じられた。
「零お兄ちゃん、合格です!! 痴漢の件も試すようなことをして申し訳ありませんでした。やっぱり乙歌が見込んだだけのことはあります……」
合格って!? 彼女は一体俺に何を試したんだ。
「すべてお話しますとの約束でしたね。
零お兄ちゃんに私が関心を持ったのはあの待合室、じゃなかった……!! 訂正です。あなたがお詫びに来た日からでした。いつもプライドの高い俊さん、これまでも妹の私の前で弱音を吐くことは一度もありませんでした。いい意味で自信家。あっ、私が俊さんって呼ぶのは彼とは血が繋がっていない関係だからなんです。乙歌が小学三年生のときに母親が今のお父さんと再婚しました。俊さんのことをお兄ちゃんと呼ばないのは家の教育方針なんです。別に関係性が悪いわけではないんです」
乙歌ちゃんが、あの香坂と血が繋がらない関係だって!?
俺は心配になってしまった。学園一のチャラ男が乙歌ちゃんに手を出したら……
「だ、大丈夫なの!? あの香坂と一つ屋根の下に暮らしているんだろう? も、もしかしてもう既に!! ああああっ、なんてことだぁ!!」
俺の胸が嫉妬で焼き尽くされそうになった。俺の愛するラブコメの
「……零お兄ちゃん、どうして自分の髪の毛を搔きむしっているんですか?」
きょとんとした顔で乙歌ちゃんが不思議な生き物をみるような視線をこちらに送ってくる。
「そ、それは香坂は学園一のチャラ、いやいや!! イケメンで人気者だから血が繋がらない関係だったら乙歌ちゃんと間違いでも起こしてしまうなんて、思っちゃった俺はどこかおかしいのかな?」
な、何を口に出しているんだ、俺は……。
「あっ、それは大丈夫です……。俊さんはとっても優しいですよ。私には指一本触れるどころか、兄妹になった日から乙歌のことをいつも守ってくれました。小学校で苗字が変わった私がいじめられた ときでも全力でいじめっこ相手に立ち向かってくれました。俺の大事な家族をいじめるな!! って……」
何だか乙歌ちゃんの前では香坂は学校でのデカイ態度と大違いだな。本当に同一人物なのか。にわかには信じられない!?
「だけど零お兄ちゃんと喧嘩したあの日の夜、俊さんは私にぼつり、と言いました。殴られるってとても悔しいんだな、と。そして自宅にあるサッカー練習場で零お兄ちゃんの似顔絵を貼った
あの香坂が!? そんなことをしていたんだ……。
きっと俺の似顔絵に憎しみを込めてサッカーボールをバンバンぶつけていたんだろうな。
「痴漢被害をでっち上げたのも信用できる人なのかを見極めるのが目的でした。試すようなことをして本当にごめんなさい。でもその
あの痴漢被害の不可解な行動は俺をテストする為だったのか……。
「好きな人がいるのか私は質問しましたよね。もし零お兄ちゃんが一時の欲望に負けてベッドで私にイヤラシいことしたら、警察に再度、痴漢被害を訴えるつもりでした……」
おおっ、ヤバい所だったんだな、ギリギリセーフだ。これからも気持ちを引き締めなければ。
「今まで私が出会った人とはすべて違ったんです。ああ、この人なんだと確信が持てました。きっと私を変えてくれる男性だって……」
「……乙歌ちゃんは俺のことをそんな風に思ってくれたのか」
「はいっ!! 零お兄ちゃんのことをもっと知りたくなりました……」
その言葉で俺はショートメールの件を思い出した。
「乙歌ちゃん、俺の携帯にメールを入れてくれた?」
(誰か私をここから救い出して、やっぱり私は寂しいの
乙歌の想いをあの人に気付いて欲しい……)
意味深なメールの文面を表示した画面を彼女に見せた。
「ええっ!? どうして零お兄ちゃんの携帯にこの文面が届いているんですか!!」
文面を見た途端に彼女の表情が驚きの色に染まる。
「もしかして、日記をメモ登録するときに間違えたかもしれないです。
その前に零お兄ちゃんの電話番号を確認していたから……」
乙歌ちゃんの表情がみるみる曇っていってしまう。
「間違いなんです、そのメール、お願いですからいますぐ消してください!!」
「お、乙歌ちゃん!?」
あまりにも動揺した様子が何だか気の毒に思え、俺はメールの表示した画面ごと携帯電話を彼女に手渡した。
「メールは削除しても大丈夫だよ、俺も似たような送信間違いは良くするから」
別にポエムでは無いが自分の心情を書いて心を落ち着かせることは珍しくはない。
「零お兄ちゃん、ありがとうございます!!」
病室のベッドに腰掛けながら乙歌ちゃんが俺の携帯を操作し始めた。
「あれっ、画面が切り替わっちゃいました。どうやって戻るのかな? へんなところを押しちゃったかもしれない……」
突然、携帯の画面を凝視しながら彼女が慌てた様子でつぶやいた。だが次の瞬間、乙歌ちゃんの身体が固まってしまった。
「な、な、何ですかこれは、零お兄ちゃん、変な動画が!!」
一体、俺の携帯に何が表示されているんだ!?
慌てて彼女が持つ携帯の画面を肩越しに
「お、おわああっ、何じゃこりゃあ!!」
俺は画面を見て腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。
携帯の画面に表示されていたモノは……。
俺が茜を二人羽織で背後から激しくむにゅむにゅしちゃってる動画だった。
修羅場の? 次回に続く!!
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