幼馴染の個人レッスン二限目

 ふにっこのお豆さん、それが二人羽織ににんばおりのお題なのか?

 ただの美味しそうな煮豆に見えるぞ。


「茜、この豆が何の練習になるんだ。俺には全く分からないんだが……」


「うふふっ!! やってみれば身体で分かるよ……」


 茜はちょっと意味深な笑みを浮かべながら、俺に長い菜箸さいばしを渡してきた。

 視界を奪われていて気が付かなかったが俺がいるのは茜の部屋だ。この部屋に入るのは小学生以来だ。昔と違って壁紙やカーテンが女の子らしい色合いに変わっているな。

 ベッドに腰掛けている俺の位置から、ちょうど壁に掛けられた制服が目に入る。

 特徴的なデザインのセーラーブレザーはその制服が着たいという理由で受験する女の子が多いほど人気の制服だ、これを着た茜は本当に可愛いんだ……。


「……零ちん。もしかしたら茜が制服を着て二人羽織の練習したいとか?」


 ええっ!? 俺の考えが先に読まれてる。茜はエスパーなのか。


「うーん、厳しいばかりじゃ特訓も嫌になっちゃうよね。何かご褒美がないと……。

 そうだ!! 二人羽織のお題で零が私に勝ったら、制服に着替えちゃうよ」


 俺はめちゃくちゃ葛藤してしまった。体操服のちょうちんブルマも捨てがたいが、幼馴染みの茜と制服二人羽織プレイ!! 何と魅惑のオプションだ……。


「……やります、いや、ぜひやらせてください!!」


 鼻息も荒く脊髄反射で即答してしまった。さすがにドン引きされないだろうか……。


「何だか昔の零ちんに戻ったみたいで嬉しいな♡」


 茜はとろけるような笑顔を俺に向けてくれた。昔の俺? 今と何が違うんだ。俺はあの頃と変わってしまったんだろうか。


「茜と制服プレイ出来る権利を賭けて、いざ勝負!!」


「お、おう!!」


 何だかテンション上がってきたぞ。高まっちゃってんのかな、俺。


 ……違う、本当に体中が熱い。これは特製襦袢を被っているからだ。今の俺は頭から袢纏を被り、ふかふかのベッドの上で幼馴染みの女の子に後ろから覆い被さっているんだ。身体が密着しているせいだ。襦袢の中は茜の香りが匂い立っていた。


 ……え、エロい、何なんだ。盆と正月が一緒に来たようなこのエロさは!? 俺の大好きなえっちなラブコメにもこんな特殊シチュエーションはなかったぞ。それに加えて二人羽織の恰好のエロさと来たら……。

 俺の腰に茜の柔らかなお尻を擦りつけられてるんだ。俺みたいなキングオブ童貞じゃなくてもこれじゃあ瞬殺されちゃうよ。


「何ブツブツ言ってんの 零?」


「おわっ!? べ、別に何でもないよ……」


「じゃあルールを説明するよ、さっき渡した箸でお皿の上に置かれたお豆さんを制限時間内に相手の口に運ぶの」


 二人羽織ゲームで良くある食べ物系か、それなら安心だろう。俺は少し安堵した、茜が突拍子もない行動をするのは今に始まったことではない。何事も平均的な俺に比べ、子供の頃から運動は言うに及ばず勉強も完璧にこなす。そんな茜だが、俺の前ではぽんこつカワイイだけでなく無理難題を言って俺を困らせる時がある。本人いわくまったく悪気はないそうだ。


「お豆さんをこぼさずに多く、相手に食べさせた方が勝ちだよ!!」


 屈託のない笑顔でルール説明をする茜、どうやら俺の考えすぎらしい……。さっき茜に、昔の俺に戻ったみたいで嬉しいと言われたが、俺の隣でどんどん綺麗になっていく茜を見るのが正直ツラいんだ。俺の手が届かない高嶺の花になってしまうみたいで……。


 正直、茜はモテる。漫画みたいだが下駄箱にラブレターなんて日常茶飯事だ。茜と付き合いたいから幼馴染みの俺に、仲を取り持ってくれなんて同級生から頼まれたこともある。俺は自分の気持ちを押し殺して茜に話したんだ……。



 *******



「茜、お前と付き合いたいんだってよ。頼まれたからこれ渡しとくな」


 茜は怪訝な顔でその手紙を受け取った。その手紙の相手は学年でも有名なチャラ男だ。だけどそいつはサッカー部のキャプテンで女子からの人気も高いんだ。俺なんかと比べたら月とすっぽんだ。俺がどちらかは言うまでもないが。


「……ふーん、D組の香坂俊こうさかしゅん君かぁ、なんで茜なんだろうね? 香坂君なら他の女子からモテモテなのに……」


 茜は訳が分からないと言う表情で俺に聞いてきた。俺は平静を装うのがやっとだった……。

 お前は分かっていない!! 嫉妬の炎でこの身が焼き尽くされてしまうかと思った。みんながお前を狙ってるんだ!!  いつも隣に居る俺は気付いている。他の男子が茜を見るときのよこしまな視線を……。


 一瞬、チャラ男の香坂と茜が付き合っている姿が脳裏に浮かんで、俺は吐き気がするほど嫉妬してしまった。


「……零はどうなの、私が別の誰かと付き合ってもいいの?」


 茜は俺の顔から視線を外してぽつりと呟いた。


「な、何で俺に聞くんだよ!? 関係ねえだろ、そんなの自分で決めろよ」


 駄目だ、気持ちとは裏腹なことを言ってしまう。茜は黙ったまま俺の言葉を聞いていた……。


「やっぱ無理、香坂君に断っておいてくれないかな。お付き合いは出来ないって」


「理由は何だよ。香坂に聞かれるんだから説明するのに教えろよ!!」


 俺は内心の喜びを悟られないよう茜に尋ねた、


「……私、別に好きな人がいるから」


 天国から地獄に突き落とされた気分だった、誰なんだ!? 別の男って。


「一体誰なんだよ、その男は。この学校の生徒なのか!?」


「……さっき俺には関係ないって言われたから零には教えない」


 茜のふくれっ面をみて失敗したと思った。どうやら怒らせてしまったようだ。昔からいったんへそを曲げると、その日は口を聞いてくれないんだ。



 *******



「アイマスクをするよ、ズルしちゃ駄目だからね!!」


 また視界が真っ暗になってしまう。黒いアイマスクはソフトな感触だが、厚手で隙間からの光もまったく入ってこない。


「……うう、何も見えん」


 ふぁさっ!!


 頭の上に襦袢を被せられたのが感触で分かる。いよいよ個人レッスンスタートだ。茜の身体と下半身だけでなく、上半身も完全に密着する。


「大丈夫か、茜、苦しくないか?」


「……う、うん」


 ドキドキと胸の心拍数が高くなる、茜に気付かれてしまいそうだ。またおっぱいを触らぬよう俺は慎重に両手を伸ばす。


「んん、ふうっ!!」


 茜の身体がビクンと反応した。ぷにぷにと柔らかい二の腕に俺の手が触れてしまう……。


「ごめん、嫌だった?」


「ううん違うの、ちょっとくすぐったくて」


 俺は状況を理解した。手は茜の脇の下に差し込まれていて、だから茜はくすぐったかったんだ。二人羽織がエロいと言ったが、練習を始めてみるとそんなレベルではない。 男と女の営み、四十八手の図が頭の中をぐるぐる廻った。


 何で高校生の俺がそんな物に精通してると不思議かもしれないが、ジョーク好きな俺の親父がお土産に買ってきたバスタオルに男女のマグワイヤ、じゃなかった。の体位が浮世絵で描かれていたんだ。中学生の頃の俺はソレをみてかなり興奮してたんだ……。


 二人羽織の格好は、四十八手の中でもとびきりエロい、に似ている、よい子のみんなは絶体に検索しちゃ駄目だぞ。零ちんとの約束だ!! まあ簡単に説明すると、あぐらをかいた上に腰を下ろして貰って、女性の背後から男性が両手を回して抱き抱える体位だ。裸だったら俺の相棒が大変なことになりそうなポーズだ



「じゃあ時計をスタートするね、制限時間は三分だよ、よーいスタート!」


 茜がスマホでタイマーをセットしたようだ。よっしゃあ、ご褒美に向けて頑張るぞ。


 長い菜箸を持ち競技開始だ。俺のターン!


「零! お箸はもっと下を持たないとお豆さんを摘まめないよ」


 美馬茜みまあかね教官から的確なアドバイスが飛ぶ。!


「こ、こうかな?」


「そうそう、初めてにしては飲み込みが早いよ!」


 茜はハンドボール部でも主将を務め、後輩の指導に当たっている。褒めて伸ばすタイプで教え方も上手い。褒められるのは誰でも嬉しい物だからな。


「もう少しお皿は右だよ。あ、行き過ぎ」


 腕役の俺は茜の指示に従い箸を動かさないといけない、これが結構難しくて箸を落とさないようにするのも大変だ。


「あっ、箸先をクロスさせちゃ駄目、お豆さんを摘まめなくなるから」


 うーっ、凄くもどかしいぞ。視覚に障害を持つ人の競技を見たことがあるが本当に尊敬する、パラリンピックとか音だけで的確に動いているもんな。


「……くそっ、じれったいぜ」


「零、イライラしちゃ駄目、もっと頭を冷やして」


 茜は俺の気持ちが手に取るように分かるみたいだ、以心伝心ってやつか。


「あっ、上手い、上手い、お豆さんをそう、摘まめたぁ!」


 よし! このまま茜の口元に運んで食べて貰うぞ。さっそく一ポイントゲットだぜ!


「零、ゆっくりと上に運んで、そう、そのままだよ」


 茜の声も興奮で上ずってくる幼馴染み二人の共同作業だ。


「あっ、零、気を付けて、お豆さんがお箸から落ちちゃうよ」


 その時だった。調子に乗った俺は豆を落としてしまったようだ。


「しまった!?」


 くそっ、もう少しだったのに……。


「零、大丈夫、私の服の上に落ちたから、まだリカバリー可能だよ!!」


 良かった、完全に落としたわけじゃなかった。


「茜、指示してくれ、豆を拾うから!!」


「……あ、うん、了解」


 何だ、茜の返事がワンテンポ遅れたぞ。まあいいや、早く落ちた豆を拾おう。


「零、箸先をゆっくりと肩ぐらいの高さまで上げて」


「……こうかな?」


 茜の指示に従い箸の先端が茜の身体に当たらぬよう慎重に腕を動かす。


「そのまま、箸先を下に降ろして、ああっ、駄目、行き過ぎ、戻して、そうそう、いい位置だよ、ゆっくりお豆さんを摘まんでね」


 茜との呼吸もバッチリ合ってきたみたいだ、最初は半信半疑だったが、本当に二人三脚の練習になるかもしれない。


「よし、ここで豆を摘まんで」


「れいっ、そこは違うよぉ、それは私の!?」


 茜の悲鳴に近い指示が俺に飛ぶ、でもこの箸先に伝わる感触は、お豆さんを確実に摘まんだ筈だぞ、箸先を動かして再度確認してみる。このふにゅふにゅした感触は間違いないぞ……。


 あれっ? 茜が黙り込んだぞ。何も指示をしてくれないのは何故だ。


「あっ、あーん♡ 箸を引っ張っちゃ駄目!!」


 こ、この声は!? 俺はお豆さんじゃなく、何を摘まんでしまったんだ。


「それは茜のさきっぽ…… 別のお豆さんだよぉ!!」


 次回に続く!!



 ☆☆☆お礼とお願い☆☆☆


 ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。


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