リカーシブ・ラストスター

荒ヶ崎初爪

プロローグ

 世界は進むことを諦めた。そして戻ることを受け入れた。


 西暦二千二百五十二年で世界は終わる。この先に未来なんてありはしない。それでも世界が消滅するわけじゃないらしい。


 世界は巻き戻る。


 時間が宇宙創成の瞬間まで巻き戻り、そして再び宇宙が創られて、元通りに時間が進むと言われている。


 なんにせよ人類がこれまでつちかってきた歴史が【巻き戻り】の瞬間に途切れてしまう。文化はこれ以上発展することはないし、文明はこれ以上発達することはない。新たな英雄が現れることもない。それでもその全てが無駄になるわけじゃない。


 世界は巻き戻り、そして繰り返す。


 つまりこれまでの全ての世界・全ての時代の出来事がそのまま繰り返される。だからこそ人類は【巻き戻り】という終末を迎えるまで究極を目指す。究極に辿り着き、究極の世界が繰り返されるようにすることが、いつしか人類の重大な責務となった。


 当然、俺もその一員となるべく、必死に自分の役割を果たしている。


 究極のアクション映画。


 俺はアクションスター璃音末星りおんまっせいとしてそれを目指している。


 スリリングな潜入。スタイリッシュな銃撃戦。ダイナミックな肉弾戦。観る人の心を震わせるようなアクションを表現することが俺の役割だ。


【マッセーアクション】と呼ばれるようになった俺の演技は、日本どころか世界でも注目されるようになった。長い歴史の中でも、史上最高のアクションスターと評価されている。世界の終末を飾るに相応しい人物の一人だと自負している。いや、俺はそうならなければいけない。


 本心を語ってしまえば、世界が終わってしまうことはとても悲しい。自分がアクション俳優を引退した後でも、さらに自分が死んだ後でも、時代が進み、技術が進化して、自分達が作ったものよりもクオリティの高いアクション映画を作ってほしいという願いもある。しかしその願いが叶わない以上、俺達の世代が最後の希望だ。


 世界は巻き戻り、繰り返し、永遠に残ることになる。


 その反面で世界は進化をめる。結局俺は、それが一番嫌だと感じているのかもしれない。


 とにかくこの世界では、終末の前に到達した最高点がこの世界における究極になる。だから史上最高のアクションスターと言われている俺がアクション映画を究極に導く者の一人にならなくてはいけない。


 だから俺は今日も自分のアクションにみがきをかける。進化の否定を余儀よぎなくされた世界で、せめて究極に一歩でも多く近づくために――。

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