2-5

「二つの頭を持つ魔獣か。かなり珍しいものと遭遇したのだな」

 ヒレンソが言った。スキィアは苦笑した。

「確かに、あれ以来一度も会ってねえな。そんなのを引いちまうとは、悪運が強い」

「しかしお前は生きている。切り抜けたのだな」

「まあ、そういうことだ。犠牲は大きかったが」



 少年のスキィアは、小さな部屋にいた。ベッドにはルケレットが横たわっている。二度と起き上がれぬ体で。

「どうだ、痛むか」

「最近はずいぶんとましです」

 ルケレットの顔には包帯が巻かれており、鼻から上はすべてが覆われていた。

「正直なところ、勝つとは思わなかった。生きていてくれてうれしい」

「ありがたいお言葉。しかしこんな役立たず、足手まといでしょう。これ以上ここに置いてもらうわけには」

「馬鹿を言うな。お前には新たな仕事がある」

「し……ごと?」

「そうだ。俺に戦い方を教えてくれ。魔獣を倒す」

「……王子さま。ああ、スキィア様。そのようなことをなさってはいけません」

「殺されるかもしれなかった命だろう。自由に使いたい」

「しかし……」

「俺は太陽になる」

 ルケレットは唇を結んだ。そして、深いため息をついた。

「基礎の基礎だけは教えられます。しかし見てのように、私は魔獣討伐に失敗しています。スキィア様は、倒したうえで無傷でなくてはなりません」

「誰に教わればいいんだ」

「……王城です。もっとも強い者たちはそこにいます」

「なるほど。ではそこに行こう」

「覚えておられぬのですか?」

「なんだ」

「スキィア様は、ずっといたんですよ、そこに」

 スキィアは自らの中の記憶をだって見た。この島にくる以前のものは不可解である。暗くじめじめとしたところで、ほとんど誰にも会わず、ただ無為に時間を過ごしていた気がする。時折訪れる白い服を着た男が、何やら話しかけていたような気はする。

「あそこが王城だったというのか」

「覚えているのですね。そうです、スキィア様は四歳まで王城の中にいました。地下牢の下の階層に」

「なんだと」

「それだけの期間、あなたをどうするか審議していたのです。生かすか、殺すか。言葉と、宗教の教育だけは施されていました。そして、王城の外で暮らすということに決まり、ここに来たのです」

「そうだったのか。城に戻れば殺されるか?」

「普通ならば。しかしあなたは王子として認められてもいます。魔獣ハンターを目指すならば、王家直属の者たちに習うことが許されるとは思います」

「そうか。よかった」

「しかし、あの生活に戻ることを覚悟してください。王城の中にあなたの味方はいないのです。にもかかわらず、あなたのお母上は大変身分がいい。政治に少しでも関われば、消されてしまうでしょう」

「そのためにここに来たのだな」

「名目を重視する方々です。王子であると認めた以上、権力も認めざるを得ないのです。ただし、味方を作らぬようこの島で暮らさせ、名目上この島の主としているのです」

「そうなのか。わかった。俺は決して王位は狙わない。領土もいらない。そのかわり、魔獣ハンターになるための助力を要請する」

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