2-6

 王族が城に帰還した場合、居住を拒否することは誰にも不可能である。

 たとえ隠された王子であったとしても、王の息子であることには変わりがない。スキィアは、第四王子として王城に迎えられた。

 しかし、公には彼の存在は隠され続けた。第四王子と呼ばれる者はあくまで別に存在するのである。地下の部屋が彼には与えられ、他の王族と接触せずに暮らすこととなった。

 数人の使用人と、魔獣ハンターの師匠がスキィアのもとを訪れることとなった。彼がそこに存在するうえで、「政治と関わらない」という条件は絶対だったのである。そのため、多くの者がスキィアが、いることすら知らなかった。

 スキィアが帰還したことを、驚いている者もいた。かつて彼が住んでいたのは小さな島ではあったが、彼には平和な生活が与えられていたのである。魔獣が襲ってきたのはアクシデントだった。王城に戻らない方が彼は幸せに生きていけると考えられていた。

 スキィアにはほとんど味方がいなかった。彼の母はすでに領地へと戻っており、彼の部下という者は存在しない。

 スキィアには王位継承の目があるとは考えられず、取り入ろうとする者もいなかった。彼は王子という身分だけが認められ、「魔獣ハンターになりたいならば好きにすればいい」という対応をされたのである。



「なかなか気合が入っているな」

 ヒレンソはゴロゴロとのどを鳴らした。気分がいいようだった。

「まあな。ずっと、何の目的も与えられず生きてたからねえ。初めてやる気が出たっていうことよ」

「しかし、城の中で魔獣を倒す練習などできるのか」

「まあ、そこよ。実戦の練習ができねえんだな」

 スキィアはそう言うと、様々な形で腕を振り回した。

「なんだそれは」

「いろいろな魔獣に対応できるよう、様々な武器を習得させられたってわけだ。まあ、天才だからできた」

「ふむ」

「しかしまあ、『武器はそんなに持ち運べんだろ』とは思ってたよ。こいつを手に入れるまでは」

 スキィアは腰に差した剣を触った。次第に形を変え、こん棒になる。

「それがあるとわかっていたから、教え込まれたのだな」

「そうみたいだけどねえ。俺みたいな下っ端王子がこれをもらうのには苦労したよ」

「なかなか大変な人生を歩んでいるようだ」

「いやあ、魔獣を敵に回す魔獣のあなたほどでは」

「そうか、はっはっは」

 スキィアは、月とは反対の方向を指さした。

「明日はちょっと大変なところを歩く」

「ほう」

「湿地帯でな。行くたびに地形が変わってやがる」

「厄介だ」

「ヒレンソは飛んでいくか?」

「いや、せっかくだからともに歩こう」

「それはいいな。四本足が沈んでいく様子を眺めるとしようかねえ」

「二本足よりはバランスがいいことだろう」

「言われてみると二本足ってなんだろうかね。不安定に思えてきたわ」

「はっはっは」

「さあて、寝るか」

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