2-4

「え、何が起こったの?」

 使用人たちが、屋敷の網戸を閉め、そして家具を扉の前に置き始めた。まるで立てこもるかのようである。

「立てこもるんですよ」

 そういうルケレットの手には、長い槍が握られていた。

「嵐?」

「出たんですよ、魔獣が」

「魔獣? こんなところに?」

「こんなところに、です」

 外の様子はわからなかったが、やけに静かだ、とスキィアは思った。彼は戦うすべをまだ知らず、武器を持たないままに食堂で待たされていた。

「魔獣が出ると、どうなる?」

「人が殺されます」

「確実にか」

「それは……わかりません。魔獣は食べるためとか、なわばりのために殺すのではありません。気まぐれに人を殺すのです。だから、よくわからないのです」

 その時、咆哮が鳴り響いた。低く冷たい声だ、とスキィアは思った。

「近づいてきている」

「ここに向かっているかもしれません」

 食堂には窓がない。不自然だと思っていたが、その意味が今になって分かった。ここは、立てこもることを想定して作られていたのだ。

 どれぐらい時間がたっただろうか。空腹にはなっていないので、まだ夜ではないのだろう、とスキィアが考えた、その時だった。

 ガラス窓の割れる、大きな音がした。咆哮が、すぐ近くで鳴り渡る。

「来てしまいましたか」

 そう言うとルケレットは槍を構えた。

「え? この部屋は大丈夫じゃないのか?」

「魔獣は何をするかわかりません。様々な形のものがいますし、魔法が使えます」

 使用人たちが、スキィアを取り囲んだ。

「ルケレットは強いのか」

「そこそこには」

「魔獣に勝つほどか?」

「……わかりません」

 廊下側の壁に、大きな穴が開いた。空気のかたまりが、いすやテーブルをなぎ倒す。

 現れたのは、二つの頭を持つ魔獣だった。一つは犬。いや、オオカミかもしれない。スキィアには、判別がつかなかった。もう一つは鷹。こちらは狩りで使うところを見たことがある。

 体は人の二倍ほどあり、四つの目はすべて充血していて赤くなっていた。

「逃がしてはくれないでしょうね。やるしかありません」

「ルケレット!」

「スキィア様、決して王になろうなどと考えてはいけませんよ。堅実に、隠れて生きてください。輝く月になってください」

 ルケレットは微笑むと、槍を大きくひと回しした。

「おい! 死ぬつもりのことを言うな!」

 手を伸ばすスキィアを、使用人たちは必死に抑え込んだ。咆哮が、いくつも響いた。

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