撲殺鬼

2-1

「いやあ、久しぶりだね」

 スキィアは、町の通りを歩いていた。身なりはそれほど良くないが、腰には王家の紋章の入った剣を刺している。ちなみに本物ではなく、武器の杖を変化させたものである。

 ヒレンソは町に入れないので、外で待っていることになっていた。その間に逃げられる可能性もあるが、その時はその時だと考えていた。

 スキィアも一応王家の人間、ずっと野宿というわけにもいかない。彼は教会に赴いたのち、市場へと向かった。携帯に向く食品を購入し、宿屋へと向かう。

「いつぶりかねえ」

 野宿続きだったため、体を洗うこともままならなかった。そんな者などいくらでもいるが、王家の紋章とは不似合いな見た目になっている。

 町には二つの宿屋しかない。一つは貴族などが来た時に泊まるもので、飛び込みでというわけにはいかない。王子となれば何とかしてくれるだろうが、手を煩わせるのもめんどうくさい。そんなわけでスキィアは、庶民の使う宿屋へと入っていった。

「あーなーたーが、この町で最強? 間違ってなーい?」

「そうだっつってんだろ!

 入るなり、大声が交わされていた。一人は女性。あまり見かけない、黄色と紫で彩られた衣服を着ている。睨まれている相手は食事中の男性で、見るからに屈強だった。

「戦ってくーれーなーい?」

「いや見てわかんないか。飯食ってんだろ」

「もし私に勝ったらー、ごはん代出ーすからー」

 この町の者ということは、宿屋の食堂に単に飯を食いに来たところだろう。そこで喧嘩を売られたらたまったもんじゃないな、とスキィアは同情した。

「そんなもんはいいからよ、俺が勝ったら夜はうちに来るってのはどうだ?」

「いいよー。そんなことでーいいならー」

 男性は食事を終えると立ち上がり、扉の外を指さした。

「ここじゃ迷惑かかるからな。外でやろうぜ」

 スキィアを含めやじ馬たちも、二人に続いて外に出た。賭けを始めている者までいる。男性に賭ける者の方が多い。

「そうなんかねえ」

 スキィアは首をひねった。

「さて、普通にけんか、でいいのかな」

「そうーねー、命まではー奪いまーせーん」

 女は両のこぶしを握って構えた。

「言っとくが、俺は負けたことがない」

 男の蹴りが、女へと伸びていく。しかしそこには、すでに誰もいなかった。

「はじーめーてー、負けをー知るんでーすーねー!」

 女は男の前に入ってくると、右のこぶしを腹部にめり込ませた。男の体が崩れ落ちる。

「だっ、まじ、かっ」

「意識はー、あーるーと。さすが、じょーぶー」

「てめっ」

 なんとか反撃しようとする男だったが、立つこともできない。そして、女の左ひざが額に突き刺さり、勝負は決した。

「ここにもー、私を止めるー人はー、いなかっ……」

 女とスキィアの目が合った。女は、ニタリと笑った。

「え、俺?」

「いーたかもー」

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