1-7

「こっちに進むのか?」

「そーのつもりだけど」

「やめておかんか」

 スキィアは目をぱちくりさせた。

「お化けは出ねえぞ。たぶん」

「そんなことではない」

「ふむ」

「私の故郷が近いのだ。気づいた奴らが襲ってくる」

「じゃあ、あんたを餌に魔獣が狩れるな!」

「私は餌か。それよりも西に向かわないか」

「そっちは王都があるからなー」

「お前は別にいいだろう」

「肩身せめぇのよ。一般人は王子の顔知らないし、王族からは嫌われてるし。母親とは会えない決まりだし、父親は忙しいし。貴族たちは利用しようとしてくるし……」

「不幸を一身に集めているな」

「まあその代わり才能のかたまりだぜえ」

「前向きだな」

「はっはっは、前向きじゃないととっくに逃げ出してるぜ、こんなくそ環境!」

「大変だったんだな……」

「魔獣が同情するんじゃねえ! お前だって仲間がいねえじゃん」

「そうだなあ」

「あー、南に行くか」

「そうしよう」

 二人は南へと旅立った。



「お師匠様に聞いてみようかと思います」

 遠くの山を見つめながら、カブレフィドは言った。

「お師匠様……大魔術師か」

「はい。まだ生きていると……思うのですが」

 カブレフィドは、魔術師の家に生まれたのではない。魔力の高い子供は、将来王国の役に立つようにと魔術師のところへ連れていかれる。そうして修行の身となるのだが、一人前になれる者は一握りである。

「魔物にも詳しいのか」

「魔力のかかわることは。ただ、知識に関しては力に応じてしか教わることができません。私が成長していなければ、意味がありませんが……」

「カブレフィドならば大丈夫だ」

「……」

 若き魔術師は、恥ずかしいような、憐れむような眼で王子を見た。第二王子であるルーデは、カブレフィドのことを大変評価している。目立たない存在だった彼女を、従者へと抜擢したのである。公的な隊のナンバー2ともなれば、生活も保障される。ありがたいことだった。

 しかし彼は、まだ若い。様々なことを知らないのだ。例えば力のある魔術師が、どれほど偉大であるかなどを。

「どちらにしろ、俺たちだけの手には負えなさそうだ。いずれとんでもない魔物と出会うかもしれない」

「そうですね。あるいは、魔獣が集まったのもそういうことかもしれません」

「魔獣か……」

 ルーデはまだ、魔獣を倒したことがない。遭遇すれば、逃げるのが最善だろう。

 ただ、いつかは対峙するかもしれない。その時のことを考えて、ルーデは思い悩んだ。


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