1-5

「知り合い?」

「知らないが、聞いたことはある。泉に住む、緑の魔獣」

 角は一本、くるくると回転している。体はしいて言えば蛇に似ており、手足は短い。

「ヒャヒャヒャ。人間と魔獣だと。珍しいくみぁあせだ。金色、お前のペットか?」

「どちらかというと私が世話になっている」

「何と魔獣が人間の! これはいただけなぃねぇ。おいらが全部、たぁいらげてあげようねえ」

 再び滝壺の水が、矢になってスキィアとヒレンソに向かってきた。ヒレンソが翼をはためかせたが、矢は風をよけて二人を襲う。

「生きてんのかこれ」

「目で操っているようだ」

 スキィアは大木の後ろに隠れ、ヒレンソは上空に飛び去った。

「人間から始末しようかな、ヒャヒャヒャ」

 今度は槍のようになった水が、大木に突き刺さった。それは、貫通した。

 スキィアはすでにその場から去り、緑の魔獣へと駆け寄っていた。剣が魔獣の体を薙ぐ。

「んっ?」

 しかし、全く手ごたえがなかった。

「こっちだぁよー」

 魔獣は、別のところにいた。水が、バシャバシャと音を立てて散る。

「分身を作ってたのか」

 本体に向き直ったと思ったら、緑の魔獣はそこにはいなかった。

「ヒャヒャヒャ、こっちぃだ」

「どうなってやがる」

「スキィア、全部幻影だ」

 急降下したヒレンソが、右腕で緑の魔獣を攻撃すると、やはりそれは水しぶきとなって消えた。

「本体はどれだっていうんだ」

「ここにはいないのかもしれない」

「そんなのあり? 大木の穴は本物だぜ」

「魔法は本物だ。とにかく相当の使い手であることは間違いない」

「この前の雑魚どもとは違うと」

「そういうことだ」

 スキィアの手の中で、剣が消えた。そして、大きな斧が姿を現した。

「何の魔法だ」

「こーゆーグッズなんだよ」

「グッズ?」

「王家秘伝、どんな武器にでもなる魔法の杖だ。ただ、使いこなせる武器しか出てこねえ。便利そうで実力に反映するタイプのグッズでございますよ!」

 スキィアは大きく斧を振りかぶり、池の中に振り下ろした。

「いい一撃だが……」

「普通ここにいるだろうよ!」

「滝だ」

 スキィアはヒレンソに視線を合わせた。滝は普通に流れているように見える。

「わかったぁて、おいらを攻撃できるかな?」

「俺はまだわかってなかったんだけど白状してくれたな、都合いいや」

 滝壺から、新たな緑の魔獣が現れた。

「ばれたってなぁ、攻撃を避けられなきゃあ意味はない」

 緑色の渦が、幾本もスキィアを襲った。

「私が跳ね返そう」

 ヒレンソが言った。

 ヒレンソが大きく翼をはためかせると、強風が巻き起こった。緑色の渦が砕けていき、滝ノ水までもが吹き飛ばされた。

「すっげー魔法! あっ」

 滝の中には、蛇のような小さくて細い魔獣がいた。ばつが悪そうに視線をあちこちに動かしている。

「あれが本体か」

「見栄張ってやがったな!」

 スキィアの手の中で、斧が長い槍に変化していった。助走を取って、スキィアは槍を放った。光のようにまっすぐに飛んで行った矢は、細い魔獣の首に突き刺さった。

「なんというコントロールだ」

「練習したからなぁ!」

 魔獣はピクリとも動かなかった。

「死んだようだ」

「本体はもろかったねぇ。しかし弱い敵じゃなかった」

「うむ」

 スキィアはハイタッチしようとしたもののヒレンソの姿をまじまじと見て、かがんでその前足に触れた。

「そんだそれは」

「俺たちやったぜ! っていう確認だ」

「そうか。私たちはやったな」

 ヒレンソののどが鳴った。


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