1-3

「13体?」

 カブレフィドの報告に、ルーデはしばらく動きを止めた。

「はい。報告がありました」

「一度にか」

「そのようです」

「ばかげている。それだけの魔獣と会うこと自体が不可能だ」

 二人は宿の一室にいた。一人は戦士、一人は魔法使いの格好をしている。美女でもある。

「しかし死体も回収されたようです」

「あいつは本当に無茶苦茶だ」

「確かにスキィア様は規格外です」

「誰か協力者ができたのだろうか」

「あの方に限ってそれは……」

「あの性格だからな」

 ルーデは、苦い表情をした。

 彼は、第二王子である。つまり、スキィアの兄にあたる。二人の関係は少しややこしい。ルーデの方が先に生まれているが、母親の身分は低い。そして第一王子は非常に頭脳が明晰であるため、ルーデに王位継承の目があると思っている者は少ない。さらには正室の子であるスキィア、予言により王国の太陽であるとされる第五王子がおり、状況は極めて不利だった。

 スキィアに関しては存在自体が隠されているため、誰一人として……否、本人以外誰も王になれるとは思っていない。しかしルーデは、そんなスキィアもライバル視していた。

「そんなにすごいのですか」

「まあ、見たのは数回だが。あいつは粗暴でわがままで、子供のまま大人になったような奴だ。しかしまあ、同情もする。その存在自体が隠され、ろくに表に出してもらえなかったのだからな」

「教育を受けていないのですか」

「そうかもしれない。そういうことも、わからぬ存在だ」

 ルーデは、教えられるまで相手が弟だということも知らなかった。城内にいる、いびつな存在。そして、めっぽう強かった。魔獣ハンターになったと聞いた時、「そりゃそうか」と思った。

 強くなりたい気持ちは分かった。認めてもらえないのは、つらいからだ。

 王家の二番目の男子。本来ならば、何の不自由もなく暮らせる地位である。しかし、実際には不愉快なことが多い。たとえ兄が死んでも、王になることはできないだろう。それほどに、ルーデの母親の身分は低かった。

 ならば、将軍にでもなってやる。そう思って鍛錬を積んできた。そしていつしかルーデは、槍の名手になっていた。

 だが、弟は魔獣を狩っていたのだ。それは想像を絶することだった。一人で魔獣を倒せる人間は、国に数人しかいない。それに、なったのだ。

「不憫な方なのですね」

「それはそうだ。実際には、王国の太陽かもしれないのに。生まれてすぐに亡くなったという兄と、どちらがそうだったのかは今でも謎だ」

 ルーデもまだ幼い時のことなので、城中が慌ただしかったことぐらいしか覚えていない。事実を知ったのは、最近になってからである。スキィアが王子であるということ、予言の対象かもめた挙句、姫ということにされたこと。第四王子とされている者は、実際には六番目に生まれた王子であるということ。

 めちゃくちゃじゃないか。

 自分だったら、力をつけようと頑張れただろうか。おそらく偉い者たちはこう考えている。「魔獣にやられて殺されでもしてくれればいいのに」

「同情はするが、奴の人生だ。好きにすればいい。俺たちは、俺たちの仕事をする」

「はい」

 二人は、宿を出ていった。

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