間章 弐
僕としては、露出狂になんの感情も持っていない。
しかし、いきなり見たいとも思っていない汚いおっさんの裸を見せられる方はたまったものではないだろう。
だから、その男が下校途中の少女に向かって、コートを広げているのを見たのは、偶然だった。赤いランドセルを揺らしていた少女は悲鳴をあげながら、男とは反対の道に走り出した。
その時、僕はといえば、男と少女がいるのとは反対の歩道にいて、近くに横断歩道もなかったため、駆けつけることは敵わなかった。
せめて、男のことを追いかけて、顔や住所などが分かったら、警察に通報しようと思い、走って逃げる男にバレないように僕は反対の歩道を走った。
辿り着いたのは住宅街。
小学生児童が帰るこの時間は静かなもので、男はとある家に入っていった。
その家の外観。表札。
それは、僕が知っているものだった。
森川静江が現在暮らしている家だ。
まさか、先ほどの男は旦那?
あんな露出狂と結婚しているのか?
そんな疑問を抱えていると車が一台帰ってきた。とっさに隠れて伺っていると、車の中からは小さな子どもと森川静江、そして、森川静江と同じ年齢に見える男性が降りてきた。
「おにいさん、今、帰りました」
森川静江がそう言いながら、玄関扉を開けて家の中へと入っていく。
おにいさんと呼ぶということは、先ほど一緒にいた男性が旦那で、露出狂は義兄なのだろう。義兄だとしても露出狂と一緒に暮らすとは恐れ入る。いや、他の家族にはバレていないのだろう。
これは利用できる。
すぐにそう思って、通報するのをやめた。
森川静江は、子どもも作り、家族で一軒家に暮らし、幸せな生活をしているため、覚えていないだろう。自分がしたことの罪を。ならば、罪と償わせてやらなければならない。本人に自覚がなくとも、罪は罪なのだから。
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