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「あの、総統閣下。さっきのお店もそうですが、普通はどこのお店でも、そういうのはやってないんですよ。高級ホテルとかなら別かもしれませんけど…」


 実は、コンビニも初めてという総統閣下を、諭すようサリーが言いました。


 19歳に諭される大人。しかも総統閣下。

 

「では、この狭い店内を、マントをつけたまま歩かねばならぬのかね」


「です、ね。まあ、そもそもマントでコンビニに来る人もいないでしょうし…」


「ふ〜む、そうなのか」

 

 先のファーストフード店の時といい、この総統閣下。傍目には、ただの世間知らずにしか見えないかも知れません。

 

「ならば、私は外で待っているから、キミはゆっくり買い物してきたまえ」


 結局そういうことに。かくして総統閣下は、そそくさと店を出てゆきました。


 はてさて、それから数分後…

 

「はい、総統閣下。これどうぞ」


 2つのうちの1つ。彼がサリーから手渡されたのは、紙カップ入りのホットコーヒーでした。


「なにかね、これは」


「コーヒーです。結局、さっきは奢って頂いたので、せめてお返しにと思って…」

 

 実は、総統閣下はコーヒーを飲んだことがありません。カップのフタを開けて、物珍しげに中を覗いたり匂いを嗅いだりしています。


「う〜む、このような不気味な飲料を好むとは、地球人というのは変わっておるな」


 人のことは言えません。


 で、なんだかんだで試しに一口飲めば、


「うっ、うぉあああーっ…な、なんだこれはぁぁっ! そ、そうだっ。毒だっ。こ、この苦さは毒に違いないーっ!」


 実は、いちいち面倒な男。それもまた総統閣下です。


「んいや、そんな毒だなんて…」


 考えてみれば大変失礼な男を前に、サリーもひと口、自分のコーヒーをすすってみました。


「えー、ぜんぜん普通のコーヒーじゃないですかー。ほら、総統閣下だって、なんの変化もなく元気そうですしー」


「あ、そういえばそうだな。うむ」

 

 いまごろ気がつく総統閣下。


「だが…」


「だが…?」


 きょとん、と小首を傾げるサリーに向かって総統閣下が、


「不知火サリー…総統である私を騒がせた騒乱誘発罪で、キミを禁固1年の刑に処す」


 突如、そう宣告しました。自分で勝手に騒いだくせに。


 でも大丈夫。


「またもう、総統閣下ったら〜。すぐそれなんですから〜」


 そのサリーのツッコミに、すぐさま総統閣下は我に返りました。


「あ、いやま…つい、かつてのクセで、な」

 

「もうっ、総統閣下ってばー」

 

 あっはっは〜っ…前にも増して打ち解ける2人です。


 にしても、今回は死刑宣告でなくって何よりですが…果たして、それは相手がコスモの友人ゆえか、あるいは気分によるものか、どのみち総統閣下なりの基準テキトーながあるようです。

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