第22話 近づいてくる土煙

 それからも、僕と御者は色々な話に花を咲かせた。

 ……なんというか、やはり、同じ地方の人間と話すのは楽しい。

 ヴァイオレットと比べて、圧倒的に。


「そういえば、お客さん、この話は聞きやしたか? この間、北部のあの中央をドラゴンが襲ったそうですよ?」

「…………ドラゴンが……。……へえ、そうなんですか。被害とかって、どんな感じだったんですか?」

「魔法使いの奴らが、なんとか撃退してくれたみたいなんで、建物が少し壊れた程度で、大した被害はなかったらしいですよ!!」

「……そうですか。被害がなかったのは、幸いですね」

「ですな!! いやー、本当に、魔法使い様様って感じですな!! あっちには、あっしの母もまだ住んでいますし!!」


 ハハハ、と御者の豪快な笑い声が聞こえてきた。

 …………。

 ドラゴン、ねぇ。

 人里には、滅多に訪れないと聞く。

 …………。


「……んあ? あれ、なんだ?」

「ん? どうかしたんですか?」

「いえね、あっちの方から、土煙が近づいて来てるんですよ。……ちょっと待て、こっちに近づいてやしませんか!?」


 御者の指さす方を見ると、確かに、こちらに向かって土煙が進んできている。

 ……小さくだが、黒い点が見えるな。

 馬、だろうか。

 そんなことを考えている間にも、土煙はどんどんと近づいてきている。


「……あ、まずい!! ありゃ、盗賊だ!! お客さん!! ちょっと馬車飛ばしますよ!! おーい、先頭!! 盗賊だ!! 馬車飛ばせー!!」


 御者さん喉鳴ってすぐに、前の方で馬がいなないた。


「うおっ!?」


 直後、馬車が物凄いスピードで進み始め、車内がガタガタと揺れ始めた。


「お客さん、掴まれるもんに掴まっときなさい!! 危ねぇから!!」

「は、はい!!」


 言われたとおりに、馬車の窓枠にしがみつく。

 ……うえっ、吐きそう……。


「……って、わっ!?」


 馬車が急にスピードを緩めたせいで、体がガクン、と前傾姿勢に倒れた。


「……すまねぇ、お客さん。追いつかれたみてぇだ」


 御者さんの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


「おい、そこの御者!! てめえらは、ここに何しに来た!?」

「へ、へえ。し、始発なもんですから、積み荷の運送と、早出のお客様をお運びしておりまして……」

「……ほう、積み荷と客をか……」


 先頭の方から、そんな会話が微かに聞こえてきた。

 ……どうしよう、これ。

 見た感じ、この馬車屋はさほど高級な店でもないのだろうし、護衛なども付けていないはずだ。

 …………。

 ……この場で抵抗できるのは、僕くらいだろうか。

 ……これでも、一応、魔法使い見習いなのだ。

 大丈夫、いける、いける、いける……!


 …………でも、怖い!!

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