第21話 木こり行進曲と地元ネタ
「昨日は熱い夜を過ごしたねぇ」
「うるさい。黙れ。死ね」
「酷すぎないかい!?」
うだうだと訳の分からない絡みをしてくるヴァイオレットを適当にあしらいつつ、カバンの中身を整理していく。
これだけ急な、しかも、アホみたいに早い時間の出発ともなると、準備がどうにも追いつかない。
まだ日が昇る前の時間だから、間に合うとは思うが……。
「……というか、ヴァイオレットさんは準備しなくていいのか?」
「うん。私は常に準備万端だからね」
何のドヤ顔なんだ、それは。
「……よしっ。僕も準備できた。それじゃ、案内してくれ」
「りょーかい!!」
朝っぱらから元気に駆けて行くヴァイオレットを、ゆったりとした足取りで追いかけた。
――カタン、カタン。
小刻みになる、荷物の音。
――ガラン、ガラン。
後続の馬車が鳴らす、車輪の音。
――サァー、サァー。
心地の良い、朝の風。
そして――
――ぐぁー、ぐぁー!!
あまりにも不快な、ヴァイオレットのいびき!!
マジでこいつ、張り倒してやろうか!!
こんなになるくらいなら、朝っぱらに予約を入れるなよ。
……ハァ。
もういいや、こいつの事は気にせずに、この素晴らしい景色を堪能しよう。
「ルル、ルル、ルルル、ルルー」
「おや? お客さん、『木こり行進曲』ですか?」
ふと鼻歌を口ずさんでいると、御者さんが話しかけてきた。
「え? あ、ええ」
「ということは、お客さんも北部出身で?」
「ええ、そうなんですよ。もしかして……」
「はい。あっしも、生まれは北部なんですよ」
「本当ですか!?」
意外なつながりが生まれたな。
まさか、こんなところで同じ出身の人と会えるとは……。
「良いですよね、この曲!! あっしも、気分が落ち込んだときなんかに、結構口ずさむんですよ!!」
「僕もです。……昔、母がよく歌ってくれていて。……思い出の曲です」
「あっちでは、子守歌の定番ですからね!! あっしも、子供を寝かしつけるときに、よく歌ってますよ!!」
子守歌、ねぇ……。
「いやー、にしても、始発からこんな幸運に恵まれるとは!! やっぱり、仕事は怠けないものですな!!」
「! ……あきない、っていうくらいですしね」
「あはははっ、上手いことをおっしゃる!!」
ああ、このノリ、間違いなく北部の人だな。
今のは、あっちで大人気だった大道芸人がよくやっていた、定番の流れだが、残念なことに、これが通じるのは北部だけなのだ。
「ようし、気分が乗ってきた!! お客さん!! 『木こり行進曲』、一緒に歌いましょうよ!!」
「分かりました」
――ルル、ルル、ルルル、ルルー
静かな朝の原っぱに、陽気な鼻歌が二つ響いた。
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