第19話 ヤバいお薬が……

「ただいまただいまー!! いやー、儲かっちゃったよ!!」


 扉が開くと同時に、陽気な声が室内に響いた。


「おーい、パトリニアくーん!! ……ありゃりゃ、ハイになった疲れで、そのまま寝ちゃったのか。おーい、そろそろ起きないと、馬車の予約が出来なくなるぞー!!」


 ――ペシペシ。


「……ふむ、これでも起きないか。しょうがない、薬で起こしてあげるか。こんな時は、ハッキリグサちゃんの薬を飲ませてあげれば……!!」


 ――ゴクゴク。


「……あ、う、ううん……」

「おはよう、パトリニア君」

「んう? んー……。……ん? あっ! ちょ、おいっ、てめえ!! 僕に変な薬を飲ませやがって!!」

「ちょっ、ごめんって!! ごめんだから、ほっぺをつまもうとしないで!!」

「というか、それだけじゃねえよ!! 薬は!? 薬はどうしたんだ!?」

「クックックッ。じゃーん、これを見てみなさい!!」


 そう言ってヴァイオレットが取り出したのは、パンパンに金貨が詰まった袋三つだった。


「…………」

「ふっふーん。凄いだろう? 凄いだろう!?」

「……お前、売ったのか?」

「見ての通りの大金で売れたさ」


 …………。


「ひたい、ひたひ、ひたひ!! ほ、ほほをひっひゃらないで!!」

「お前、あれは売るなって言ったよな!? なんで売ったんだよ!!」

「だ、だって、金がないと何もできないじゃないか!!」

「金くらいなら、僕に相談してくれればどうとでもできるんだよ!! あんな危ない薬が、市場に出回っただなんて……」

「……なんで、君に相談したら金が湧いて出てくるんだい?」

「い、いや、僕がどうにか頑張って稼ぐって意味だよ!!」

「ふーん。つまり、私は君のヒモになっていいってことだね!?」


 何でそうなるんだよ!?


「まあまあ、大丈夫。ちゃんと、表市場には出回らないように、裏の方に回したから」

「いや、余計に悪質だろ」

「大丈夫。前の街でやったときも、一月はバレなかったから」


 こいつ、こんなことを色んな所で繰り返してんのかよ……。


「まあまあ、もう過ぎた事なんだし、未来の事を考えようじゃないか」

「無理やり良い方向にもっていこうとするんじゃねえ」

「とりあえず、馬車の予約はもう済ませておいたからね」


 ……少しは役に立つじゃないか。


「まったく、大変だったんだよ? この袋が一つ吹き飛んじゃったんだから」

「……ってことは、薬がそれ四つで売れたってことか?」

「そゆこと」


 なにがどうなったら、そんな高額で売れるんだよ。


「まあ、いいや。それで、いつ出発なんだ?」

「えっとね、明日の明け方だったかな?」

「……は?」

「そういうことで、明日は早いから、おやすみー」

「おやすみー、じゃねえよ!! お前、なんでそんな早い時間に取ったんだ!?」

「君だって、なるべく早く材料を見つけたいだろう?」

「それはまあ、そうだが……」

「そういうこと。じゃ、おやすみー」

「だから、すぐに寝ようとするな!!」

「まったくもう、なんなんだい、君は。あんまりうるさいと、チューして塞いじゃうぞ」

「やめろ。マジでやめろ。……って、そうじゃなくて。お前、そんな早い便を取っておいて、ちゃんと起きられるのか?」

「うーん、分かんない。てへっ」


 てへっ、じゃねえよ!!


「もし起きられなかったら、君が起こしてよ。君が起きられなかったら、私が起こしてあげるからさ」

「……ハァ、分かったよ。大金が動いている以上、絶対に寝坊は許されないからな?」

「はいはい、分かってるよ。だから、ほら。おいで」

「……は? なにしてんの?」


 ベッドに寝転がり、ヴァイオレットはなぜか両腕を広げだした。


「添い寝、しようじゃないか」

「いや、なんでだよ!?」

「だって、そっちの方がすぐに君を起こせるし、君もすぐに私を起こせるじゃないか。ウィンウィンの関係になるわけだ。だから、おいで」

「絶対に嫌だ」

「でも、君は私とベッドで寝る約束をしたよね? じゃあ、絶対にここで寝ないといけないわけだ。でも、私はここから退く気なんてさらさらない。じゃあもう、添い寝するしかないじゃないか」

「意味分かんねえよ。……チッ、くそっ。ベッドで寝るにしても、端っこで寝ろよ?」

「えー、連れないなぁ……。まあ、それで妥協してあげるよ」


 渋々といった様子で、ヴァイオレットはベッドの端へ転がりながら移動した。

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