第17話 リンチョウにて

「それでは、お二人はこちらの魔方陣にお乗りください」


 そう促され、僕たちは店主が手で示している方にある、かなりの大きさの魔方陣に乗った。


「へー、これでテレポートできるのか!!」

「そうだから、騒ぐな」

「えーっと、ヴァイオレット様、行き先は『リンチョウ』でよろしかったですよね?」

「うん、あってるよ」

「分かりました。それでは、ただいまより、お二人をリンチョウまで転位させます」

「お願いします」

「お願いしまーす!!」


「それでは、参ります。お二人とも、良き旅を!! 『テレポート』!!」


 店主の叫び声と同時に、僕らの視界がぐちゃぐちゃに歪みだした。




 ――ぐわんぐわんぐわん。


 歪んでいた視界が少しずつ戻り、辺りの景色が少しずつ目に入ってくる。


「……成功、っぽいな」


 目の前に見えるのは、巨大なもんとその向こう側にいるたくさんの人々。

 ……祭りでもあっているのかと思う程ににぎわっているな。


「……うん、素晴らしい!! さ、パトリニア君、改めて紹介しよう!! こここそが、音に聞く繁華街『リンチョウ』さ!!」

「それで、どこに材料はあるんだ?」

「……君、もうちょっと人生楽しみなよ」


 うるせえ。


「ほらほら、そんな無粋なこと言ってないで、ちょっとだけ観光しようじゃないか!!」

「ちょ、押すな!! 観光より先に、宿を取りに――」




「……ハァ」


 ようやく取れた宿の一室で、大きな溜め息を吐く。

 こいつ、どんだけ歩き回らせてくるんだよ。


「おや、溜め息なんかついてどうしたんだい?」

「……別に」

「クックックッ、そんなに観光が気に入らなかったのかい? あんなにも楽しそうにしていたのに?」

「……うるせえ」


 確かに、観光は楽しかった。

 見たこともない食べ物、道具、文化、様々なものに触れられた。

 ……まあ、この後で宿を取る手間があるという悩みがなければ、もっと楽しめただろうな。


「クックックッ、ほっぺたに菓子のくずを付けておいて、よくそんな口を利けたものだねぇ」

「…………」

「ほら、取ってあげようか?」

「やめろ、触るな」


 僕の制止も無視し、ヴァイオレットは指で菓子の粉をからめとり、そのまま口に咥えた。


「お、お前、なんで人の頬についてた菓子を食うんだよ!?」

「別にいいだろう? 君についてたんだし」


 どういう理屈なんだ、それは!!


「それとも、舐めて取るほうがお好みだったかな?」

「やめろ、マジできもい」

「辛辣だなぁ、君は」


 誰だってこういう反応になると思うぞ。


「ふぅ、今日のパトリニア君からかいのノルマも終わったし。……そろそろ、次の材料について話そうか」

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