第15話 約束して

 ――ガチャッ。


「戻ったぞ」

「ん、おかえり。……随分疲れた様子だね」

「少し面倒・・だっただけだ。……でも、その分上手くいったぞ」

「上手くいったって、なにがだい?」


「テレポート屋を無料で使っていいことになった」


「……は!?」


 ヴァイオレットの口から、間の抜けた声が零れた。

 形勢逆転、今度はこっちが驚かす番になったようだな。


「ちょっ、パトリニア君、マジで言ってるの!?」

「ああ」

「確か、テレポート屋って、この街でも結構な値段したよね!?」

「まあ、小さい家一軒分くらいは」

「……本当に、どんな手を使ったんだい、君は……」

「先に言ってた通り、内容は絶対に言わないからな」

「はいはい、分かってるよ。まあでも、とりあえずは、でかした!!」

「どーも。ま、そういう訳だから、いつでも旅に出れるぞ」

「了解。クックックッ、予定が良い方向に狂ってくれた。本当にありがとう、パトリニア君」

「……おう」


 宿に戻ってきたことで、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 ……ちょっとだけベッドで休もう。


「寝転がるから、ベッドから退いてくれないか?」

「えー、面倒なんだけどー」

「知らん。いいから、早く退いてくれ」

「……ねぇ、どうせ寝るんだったら、私が添い寝してあげるよ」

「やめろ。余計疲れる」

「疲れるって、なんで? 緊張して? それとも、激しく運動を」

「お前は何を言ってんだ!! ……ハァ、もう床でいいや。今日はわざわざベッドまで運んだりしなくていいから――!?」

「えいっ」


 ――ドサッ。


 突然腕を引かれ、気付けば僕はベッドに押し倒されていた。


「床でなんて、絶対にダメ。体、壊しちゃうよ?」

「そんなのは気にならないし、離れろ!!」


 なんでこいつは、すぐに僕を押し倒すんだよ!?


「離れてもいいけど、ここで寝るって約束して。悪環境で寝るのは、危険だ」

「危険って、なにが……」

「気づいてないとでも思っているのかい? 君、眠るたびに呻いているだろう?」


 …………。


「私は、これでも薬草師なんだよ? 健常な人と怪我人、病人の区別くらいはつく。何を隠しているのは知らないよ。……でもね、一度仲間になった以上、君の体調が悪化するのを見過ごすわけにはいかないんだよ」

「……チッ」

「ほら、いい子だから、ここで寝なさい。ウタタネソウちゃんの薬も飲ませてあげよう」

「いらないし、いいかげん離れてくれ」

「はいはい。何かあったら、いつでも私に言いなさい。薬を煎じるくらいしかできないけど、それでも少しは役に立つはずだよ?」


 肩をすくめ、ヴァイオレットはそう言った。


「分かったよ。分かったから、もう僕に構うな……」

「はいはい。……おやすみ、パトリニア君」

「おやすみ……」

「!?」


 ヴァイオレットが驚きに満ちた顔で振り向いたのは、僕が完全に眠りについた直後であった。

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