第14話 次の予定は

 …………。


「うわーい、久々のフカフカベッドだー!! 君もなかなかに良い部屋を取ってたねぇ」

「お願いだから出ていってください」


 土下座し、本気で頼み込む。

 こいつが部屋にいては、休めるはずなどない。

 僕はもう、今すぐにでもベッドに飛び込んで眠りたいんだ。


「えー、どうしよっかなぁ……。……イヤだっていったら、どうする?」

「実力行使する」

「ふーん、君に出来るのかい? そんな貧相な体で、私に勝てるとでも?」


 あんたも似たようなもんだろ。


「……ハァ。もういいや。部屋は自由に使っていいから、僕に構わないでくれ。もう、眠たくて眠たくて、しょうがないんだ……。ふわぁ……」

「……ふむ。そういう事なら、私に任せなさい!! えーっと、確かこの辺に……」


 ポケットをごそごそと漁りだしたヴァイオレットを尻目に、僕は床に丸くなって寝転がった。

 もう、こいつに構ってられるほどの、余裕は……。


「おっ、あったあった。これは、私特製のキャンドルで、安眠効果が……。……って、もう寝ちゃってたか。まったく、しょうがないなぁ、君は」




 ……ん、ふぁーあ……。

 大きなあくびをしながら、ぐっと背伸びをする。

 ……ん?

 あれ、僕、昨日は床で寝たよな……?

 なんで、ベッドの上にいるんだ?


「すかー」


 すぐ近くで聞こえてきた寝息。

 まさか、と思って隣を見ると……。


 ……ハァ。

 なにやってんだよ、こいつは。

 ヴァイオレットは、床でぐっすりと眠っていた。

 変な気を回すくらいなら、普段から大人しくしてほしいものだが……。

 ……ったく。


「……ん、あれ? もう起きたのかい、パトリニア君?」

「ああ、まあ。……あんがと」

「ん? 何か言ったかい?」

「……なんも言ってねぇよ」

「ほら、もう一回大きな声で言いなよ。あ・り・が・と・う、だろう?」

「おまっ、聞こえてたんじゃねえか!!」


 うぜぇ、こいつ!!


「クックックッ、起き抜けに君の面白い反応も見れたことだし、今日は良い事が起こりそうだ」

「僕で遊ぶなよ」

「クックックッ、良いじゃないか、面白いんだし」


 全然良くないんだが。


「というか、そうだ! まだ君に、今後の予定を何も言っていなかったね」

「予定?」

「うん。本当は、昨日のうちに済ませておこうと思っていたんだけどね。君が可愛い顔で寝ていたもんだから……」


 キッショ、こいつ。


「そんで、次は何させる気なんだ?」

「今回は、そこまで大変なことはしないよ。……まあ、強いて言えば、移動が少々面倒かな」


 ……嫌な予感がする。


「もしかして、また歩くのか?」

「いや、今度は歩かないよ。というか、ある気なんかで言ってたら、寿命が幾つあっても足んないよ」

「……は? ちょっと待て、どこまで行く気なんだよ!?」


「えっとねー、馬車で二週間くらいかかる場所」


 …………。


「あれ? もうちょっと面白い反応をしてくれると思ってたんだけどな」

「……なあ、流石に冗談だよな?」

「ん? 距離のこと? 冗談じゃないけど?」


 …………。


「お前、本気で言ってんのか!? そんな、馬車で二週間って、おま、はあ!?」

「クックックッ、時差タイプの反応だったか……。ま、そういうわけだから、長旅の準備を……」

「いや、マジで行くのかよ!? なあ、もうちょっと近い所に材料ないのか?」

「ある事にはあるんだが、ちょっとした事情がね……」

「事情?」

「今はまだ言えないんだけどね。そういうわけだから、早く準備してくれないかい?」

「……なあ、テレポート屋は使わないのか?」

「高いじゃん、あいつら。生憎、私はそんな金持ちじゃないんでね」


 テレポートは、高等魔術だ。

 ただでさえ、魔法を使える人間が少ないのに、テレポートまで使えるとなると、ごく限られた人数となってしまう。

 ゆえに、テレポート屋を使うのは、めちゃくちゃなお金がかかるのだ。

 ……ハァ。


「一応聞くけど、ヴァイオレットさんは、別に馬車での旅を好んでしたいって思ってるわけじゃないよな?」

「当然。だって、お尻が痛くなっちゃうじゃん。しかも、二週間ともなるとね……」

「……分かった。じゃあ、ちょっとだけここで待っててくれ」

「どうかしたのかい?」


「緊急手段を使ってくる。内容は聞くな」


 あんまり気乗りしないけど、しょうがない。

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