第13話 脱出!

「おはよう、パトリニア君」

「…………」


 ……僕は昨日、ヴァイオレットに『絶対に近づいてくんな』と言ってから、一人で寝ていたはずだ。

 なのに、なんでこいつは、僕の方に顔を向けて頬杖を突いて寝転がっているんだ……?

 ……ハァ。


「僕に近づくなって言ったよな!?」

「ひ、ひたい、いたい!! ほ、頬をひっふぁらないで!!」


 マジで、こいつと一緒に冒険するとかいうんじゃなかった……。




 ハッ、ハッ、ハッ……。

 息を切らしながら、なんとかヴァイオレットを追い続ける。

 こ、こいつ、体力無限にあるんじゃねえの!?

 なんで、こんな森の中を、あんな楽そうに歩けるんだよ……。


「……パトリニア君」

「な、なんだ……?」

「そろそろ、着くよ」


 ヴァイオレットがそう言った直後、急に視界が開けた。

 そして――


「おおっ……!!」


 眼前に広がるのは、数日振りに見た人里。

 ……なんか、他愛もない光景なのに、感動するな……。

 この数日間、森を彷徨さまよって、洞窟を彷徨って、変なのに襲われて、また森を彷徨って……だったもんな。

 頑張ったな、僕。


「はー、ようやく帰れた!! パトリニア君も、お疲れさま」

「……ヴァイオレットさんもお疲れさま」

「! おやおやおや、君も随分丸い反応をしてくれるようになってくれたじゃないか!!」

「うるさい」


 ニヤニヤしているヴァイオレットを無視し、僕は街の正門まで歩いていった。




「ねぇ、パトリニア君」

「…………」

「ねーえ、パトリニアくーん!」

「なんだよ、さっきから!! てか、往来でそんな大声を出すな!!」


 恥ずかしいったら、ありゃしない。


「でも、今の君の方が大声を出してるよ?」

「揚げ足を取るな。……で、何の用だ?」

「えへへ、呼んでみただけ」

「…………」

「ちょちょ、無言で歩いていかないでよ! 冗談、冗談だから!!」

「次はないぞ?」

「はいはい、分かりました」


 あ、こいつ絶対に分かってないな。


「それでさ、君、さっきからどこに向かってんの?」

「どこって、宿屋だけど。一刻も早く疲れを取りたいからな」


 冒険に出る前に、二週間分くらい一気に予約してたからな。

 こうしておくと、でかい荷物をわざわざ持ち運ぶ必要もなくなる。


「ふーん、そっか。分かった」

「……なあ、ヴァイオレットさんも、ちゃんと宿取ってるんだよな?」

「ううん」

「…………。それじゃあ、今晩はどうするんだ?」

「え? パトリニア君と同じ宿に泊まるけど?」

「…………。せめて、部屋は分けろよ?」

「はいはい、分かりました」


 あ、こいつ絶対に分かってないな。

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